特集

2008.08.03 Special Issue No.20

有機農業と地球の食 ~おいしくて安全なだけじゃない。 育まれる命の循環~

中国製冷凍ギョーザによる中毒事件、食品偽装問題、輸入食品の農薬残留問題……
今、私たち消費者の食の安全への意識が高まり、これまでは値段の安さを基準にしていた食材の購入も、「国産」かどうか、「有機」かどうかなどを気にする人が増えています。中でも、有機農業には、おいしい・安全というイメージがあるようです。

ところで、有機農業とは、どんな農業なのでしょうか。そして、私たちの「食」の選択の変化は、世界の食料事情にどのような影響を与えるのでしょうか。


人間の知恵から生まれた様々な農法

私たちの毎日の食を支える農業。古くは紀元前9000年ごろから、各地の気候や土壌に合った方法で、海抜0~4000 メートルまでの地域で実践されてきました。
農業を行うことは、土から養分を奪うため、持続するためには何らかの工夫が必要です。そこで、人々は知恵を絞って、その土地に合う農法を確立してきました。例えば、広い平地では移動して牧畜や焼き畑を、山間部などでは自然資源を使って土に養分を入れるなどの農法を実践。また、長い時間をかけて、種子を取捨選択していき、害虫に強い種類の作物を残すなどの工夫もなされてきました。


有機農業とは

有機農業も、昔ながらの農業の一つ。自然の物質を循環させて、作物や家畜を育てる農業のことです。日本では、鎌倉時代に人間のふん尿を田畑にまいて作物に栄養を与えたという記録が残っており、これが日本での有機農業のはじまりともいわれています。また、江戸時代の人口増加を支えたのは有機農業だったという説があります。当時、江戸の町に暮らす100万人分のふん尿が、関東平野の各農家でたい肥として活用されており、人ふん尿の収集・運搬は重要な産業の一つになっていました。世界でもっとも早く100万人都市となった江戸。増えた人口をまかなう食料増産を達成したのは、都市と農村、人と作物の間での養分の循環による、農業生産性の向上だったのかもしれません。

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有機農業と環境を学ぶ子ども (バングラデシュ)

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有機農産物の定義は?

家畜のふん尿を発酵させて作ったたい肥を田や畑に入れて土壌養分を補給、採れた作物の一部を家畜に食べさせて、養分を循環させる農法によって栽培された作物を有機農産物と呼んでいます。しかし、細かい定義は有機を認証する団体や国によって異なります。
日本では、農林水産省が「化学的に合成された肥料及び農薬の使用を避けることを基本として、播種又は植付け前2年以上(多年生作物にあたっては、最初の収穫前3年以上)の間、堆肥等による土づくりを行ったほ場(田畑、樹園地のこと)において生産された農産物」を「有機農産物」と定めています。


世界の食料をまかなう近代農業

こうした、自然の力を活用する昔ながらの農業は、伝統農業と呼ばれています。一方で、いま私たちが普段口にしている多くの農産物は、近代農業によって生産されたもの。近代農業とは、生産効率を重視し、化学肥料や農薬を大量に使い、大規模化、機械化、大量少品種化された農業のことを指します。

近代農業の始まりは、1911年にドイツのフリッツ・ハーバーが、水素と窒素から、直接アンモニアを製造する方法を確立したことにさかのぼります。ハーバーはもともと第二次世界大戦で使われていた爆薬を開発するためその手法を開発しましたが、その後、化学肥料を生産するためにも使えることがわかりました。また1939年には、スイスのポール・ミューラーが化学物質DDTの殺虫効果を発見し、これが化学合成農薬開発の基礎となりました。その後、天然の鉱石から製造する化学肥料も次々に開発されていきます。

以降、化学肥料と農薬の使用による近代農業は、食料を増産する画期的な方法として世界の農業の主流となり、近代化によって急激に増えた世界の人口をまかなうための食料供給を支えるようになりました。


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