特集

2009.04.01 Special Issue No.23

見えていますか? 商品のウラ側。

私たちの毎日の生活に必要な製品は、さまざまな国・地域での生産工程を経て届けられます。中には、環境に負荷をかけ、劣悪な労働環境の中から生み出されたものも……。
こうした問題を解決するために、生産者、消費者問わず、それぞれの行動に責任を持とうという動きの中で、いま、企業の社会的責任(CSR)が注目されています。

毎日の生活を支える食品、衣料品、電化製品、嗜好品……これらは、数え切れないほど多くの国や地域を経て私たちの手元に届きます。少しでも安くていいものを求める消費者のニーズに応えようと、低コスト・高品質の原料を調達・加工できる地域を求めて、企業の生産活動が世界中に広がっています。日々手にする製品を通して、私たち消費者は、名前も知らない世界中の国・地域や人々とつながっています。


製品の裏に隠された、深刻な問題

しかし、世界の生産現場では、さまざまな問題も起きています。たとえば、日本人の暮らしに欠かせない携帯電話。部品の原料として使われる希少鉱物コルタンは、コンゴ民主共和国やオーストラリアなどの限られた地域でしか採れません。コルタンは、コンゴ民主共和国周辺国のルワンダ、ウガンダ、ブルンジの反政府武装勢力によって不正に採掘され、得られた利益が武装勢力の資金源となって、同地域の紛争を長期化させているとの国連の報告があります(※1)。携帯電話のほかにも、チョコレートの原料カカオにまつわる児童労働、縫製工場での過酷な長時間労働や廃棄物による環境汚染など、世界に広がる生産活動の裏側には、多くの人権、環境問題が隠されています。

※1 現在、コルタンに関しては、市民社会ネットワークがコンゴ民主共和国の国境貿易を監視し、紛争の予防に取り組んでいる。また、中部アフリカで産出されたコルタンの取扱いを禁止する企業や、社会的・環境的に信頼できる工程で採掘されたコルタンの市場をつくることに積極的な企業も出てきている。


注目されはじめた企業の社会的責任(CSR)

私たちは消費者として、また同じ地球上に暮らす市民として、こうした状況を、手をこまねいて見ていてもいいのでしょうか。見知らぬ地域で起きている問題は、その地域のなかで解決されるのを待つべきという人もいるかもしれません。しかし、これらの問題は、より安くより便利な製品・サービスを求める先進国の消費者ニーズや、利益のみを追求する多国籍企業が引き起こしている例が多く、開発途上国の人々の責任のみを問うことはできません。私たち一人ひとりが責任を持って解決策を講じなければ、問題は解消されないままです。

これまで、開発途上国で起きている人権や環境問題解決に向けて、特に活躍してきたのがNGOです。現地の人々を直接支援したり、当該国政府に改善策を講じるよう訴えたりしてきました。さらに、開発途上国の下請け工場で起きている問題に関しては、発注元である先進国の企業に圧力をかけることが解決につながると考えた国際NGOが、報道などを通じて広く消費者に問題を伝えると同時に、企業が問題解決に積極的に取り組むことを問いただしました。欧米諸国を中心に消費者からの声も高まり、企業は徐々に自らの行動が社会に与える影響と、その責任を考え直すことになります。

このような社会の動きの中で注目され始めたのが、企業の社会的責任(CSR)という考え方。企業には、よい製品・サービスの提供だけではなく、地球環境への配慮や社会貢献など、企業と関係するあらゆる人や組織、地域、環境へ配慮する責任がある、という考え方です。CSRに基づいた具体的な企業行動をCSR活動といいます。

日本企業にも広がる、CSR

このように、特に欧米でCSR活動が活発になったきっかけの一つは、NGOなど市民側からの強い働きかけがあったことでした。しかし今では、株式市場や格付機関が企業評価の尺度としてCSRの視点を取り入れるようになっていることから、企業が積極的にCSR活動に取り組むようになっています。
日本でも、企業のCSR活動への関心は年々高まっています。東証一部上場企業約1700社のうち、CSRレポート等を発行しているのは約500社。CSR専門の部署を置く企業も増えており、NGOと連携したさまざまな活動に着手している例もあります。社団法人経済同友会の2004年調査によれば、CSRに取り組む意味として「社会に存在する企業として、払うべきコスト」と答えた経営者が65.3%と、日本企業のCSRへの意識の高さが伺われます。一方で、幅広いCSR活動の中でも、一般に理解が広がっている環境活動に重きを置く企業が多い、という特徴があります。


製造業でも、小売業でも
企業が商品の生産工程へ責任をもつ取り組みが活発化

多くの要素を持つCSR活動。その中でも、私たち消費者の日常生活にもっとも身近なものが、製品の生産工程に着目したCSR活動です。企業が、自分たちが販売する商品の生産工程に責任を持つ取り組みが活発になったきっかけは、1990年代にアメリカのスポーツ用品メーカー・ナイキ社が取引する東南アジアの下請け工場で、生産コスト削減のために児童労働や低賃金労働が行われているという事実が発覚したことでした。人権問題に取り組むNGOや消費者団体による大規模な不買運動が起こり、欧米のマスコミも大きく取り上げました。
これを受けてナイキ社では、自社内だけではなく、国内外の取引先に人権や環境問題がないかどうか監視する仕組みづくりをはじめます。以降、世界中の企業で生産工程に着目したCSR活動が活発化しました。中でも、人権、環境、倫理などについて十分な配慮を行っている取り引き先から、積極的に原料や部品を調達する行動は「CSR調達」と呼ばれ、製造業に携わる欧米の企業を中心に広まっています。また、製造業だけではなく、商品を仕入れて販売する小売業界においても、「フェアトレード(※2)」商品の取り扱いを増やし生産工程が見えるようにするなどの取り組みが行われています。
では、日本では、企業が生産工程に責任をもつ取り組みは、どのように行われているのでしょうか。

※2 弱い立場に置かれ、安い報酬を受け取らざるを得ない生産者に、正当な対価を支払う公正な貿易のこと。


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