特集

2009.08.01 Special Issue No.25

トイレが守る、命と尊厳

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INDEX

世界では26億人もの人々がトイレのない生活を送っています。トイレがなければ屋外で用を足せばいいのでしょうか? もし、ふん便を介した感染症が、子どもの健康状態を悪化させ、その命を奪うこともあるとしたら……。

人は食べなければ生きていけません。そして食べた後には「排せつ」も必要になります。人は平均で毎日約100グラムのふん便と1.5リットルの尿を排せつしています。日本では、用を足したくなれば自宅や職場、もしくは飲食店や公共施設に設置された衛生的なトイレで排せつすることができます。でも、世界では約4割の人々が衛生的なトイレのない生活を送っています。


下痢で命を落とす子どもたち

トイレがなくても生きていける、という人もいるかもしれません。ところがユニセフによれば、下痢になる原因の約9割は、手洗いや安全な水・衛生的なトイレの利用が不十分なことです。そして年間200万人もの5歳未満の子どもたちが下痢性疾患によって命を落としています。

下痢の原因の一つは赤痢などの感染症や寄生虫症。これらは、病原体を持った人が井戸など水源の近くでふん便を排せつし、水が汚染され、別の人がその水を飲んだり食べ物を洗ったり調理したりすることで広がっていきます。開発途上国でまん延するこれらの病気は、「水を介した病気」と表現されることが多いのですが、実際には「ふん便を介した病気」ともいえます。つまり、開発途上国での下痢性疾患の広がりを抑えるためには、安全な水だけではなく、衛生的なトイレも不可欠なのです。


恥ずかしくて学校に行けない

開発途上国の人々の命と健康を守るために重要な役割を果たすトイレ。暮らしの面でも計りしれない影響力を持っています。

たとえば、学校にトイレがないことによって女の子が学校へ行かなくなる、ということがあります。思春期の女の子にとって、学校にトイレがなく外に行かなければいけない、あるいはトイレがあったとしても竹壁で囲まれただけの簡易的なものだったり男女別でなかったりする場合、用を足すことはとても恥ずかしいことです。そのために学校へ行きたくなくなり、親が学校を休ませることがあります。場合によっては、女の子が初潮を迎えると同時に親が学校に行かせなくすることさえあります。

またトイレがないことで、日中は我慢して日が昇る前に早起きし、人里離れた屋外で用を足す女性や女の子も多くいます。そのために暴力や虐待に合うこともあります。女性たちは、身の危険を感じるストレス、そして尿道の感染症や慢性的な便秘のリスクにもさらされています。


語られないトイレのニーズ

このようにトイレを普及させることは、健康だけではなく、女の子の就学や女性の尊厳を守ることにもつながります。けれども多くの国や地域では排せつに関して公に話題に出すことがタブー視されていて、トイレについて口に出しづらく議論にのぼりにくいのです。

日本でも、学校のトイレで大便をすることが恥ずかしいと思う子どもたちがトイレを我慢し健康を害するという話をよく耳にします。援助を受ける開発途上国、援助を行う先進国の双方の社会にとってトイレは語りにくいため、開発途上国政府の公共事業や先進国の援助でも、後回しにされ続けてきました。


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