特集

2010.03.01 Special Issue No.27

地球を守る、命のつながり ~生物多様性と食~2

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INDEX

生物多様性の危機を迎えている地球。
このことは、私たちの暮らしにどんな影響をもたらすのでしょうか。

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私たちは生活のあらゆる面に生態系からの恵みを受けていると同時に、はるか昔から、その土地その土地の生態系をうまく活用しながら暮らしてきました。その営みの中で、一番規模が大きいのが、人間の毎日の食と命を支える農業です。国連食糧農業機関によれば、いま世界の土地の約1割が農地として利用されています。増え続ける世界の人口を考えれば、さらなる農地の拡大が予想されます。


多様性を守ってきた農業。でも、奪う側に変わっている?

日本では、30年~40年前までは地方ごとに伝統的な農作物が大事にされ、その土地固有の種子などが受け継がれてきました。同じニンジンでも、北海道で栽培される伝統種には越冬できるものが多く、沖縄の伝統ニンジンは暑さに強いなどの違いがあります。これは、野生の植物をその土地の気候風土でうまく栽培できるよう、異なる種類のめしべとおしべを授粉させ、その土地に合った強い種類を選んで残してきたからです。そんな、農業を営む人たちが長い時間をかけてつくってきた地域の田畑。そして、そこに適応した生き物が、それぞれの生態系をつくってきました。たとえば、ため池はメダカやカエルなど生き物の宝庫。しかも、池ごとに生きるメダカの種類も異なります。

ところが、そうした地域の特徴を生かした農業が失われつつあります。効率よく多くの作物を流通させるために、同じ形同じ種類の作物を栽培することが推奨され、傷や虫食いがあるものは見た目だけで不良品とされてしまうようになりました。消費者の嗜好の変化や食の工業化により、伝統的な作物が急激に減っているのです。農薬や化学肥料を使ってどこの土地でも同じ種類の作物が栽培できるようになるかわりに、土壌や水が汚染され微生物が減るなど、他の生き物と共存できない形での農業が増えています。


たった5品目の作物で生きるエネルギーをまかなう

日本だけでなく、グローバル化によって世界各地で栽培される農作物の種類も激減しています。その土地で必要な食べ物をその土地でつくるのではなく、世界の市場が求めるものをつくるといった世界の構造が原因です。

人類が農業を始めて以来、世界では7000種以上の作物を栽培し、地球上の植物のうち少なくとも8万種が食べられているといわれています。その種がいま大量生産に適したものへと大きく偏ってきて、過去100年の間に栽培されていた品種の9割ほどが失われているといいます。そして、世界の人々は、小麦・米・トウモロコシの3品目によって、植物から得るカロリーの半分ほどを摂取していると試算されています。これにジャガイモ・大麦を加えた5品目になると、8割のカロリーをまかなっている計算になります。

品種や品目が少なくなっても、十分に食料を生産できれば問題ないという人もいるかもしれません。けれども、偏った種類の作物ばかりが栽培されていくと、今後、たとえば気候変動のなど影響で広い範囲で干ばつが起きたとき、いっぺんに凶作になってしまう可能性もあります。高温や低温、乾燥、病気など、それぞれの環境に適した多様な個性が失われるということは、食料を安定して生産できなくなるリスクを高めるのです。また、作物の種類が減っていくことで、その作物と共存していた他の生き物やその作物を生み出していた生態系も減ることに……

私たちの想像を超えた命の連鎖。それは、やがて人間の暮らしにも影響することになります。

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小麦・米・トウモロコシで、植物から得る
カロリーの半分ほどを摂取


地域の生き物を、どこで守る?

地域固有の生き物を保全する方法には、大きく2種類あります。田畑や森林など生息地の中で保全を図る場合と、博物館や実験施設など本来の生息域ではない場所に移設して、人工的に飼育・繁殖することで保全しようとするものです。

前者に関しては、農業を営む人たちの自発的な努力や意識の改革も必要となります。栄養や生育の面で近代種にひけをとらない伝統種でも、農家が「劣っている」と思い込んでいることも。しかし、農家の意識が変わり、地域固有の伝統種を栽培しはじめても、売る市場がなかったり、政府の政策に沿わないために不利な条件で耕作しなければならないなど、十分な収入を得るまでにはさまざまな障害も残ります。そのため、つくる側だけではなく食べる側の消費者が伝統種を見直すことも大切です。

日本では昔から「身土不二(しんどふに)」、つまり体と環境は不可分であるという言葉がありました。その土地でとれる固有の食材を使って、その食材が一番おいしい時期に、その食材に合った調理方法で食べる、という考え方です。そんな考え方を見直し、伝統的な食材や料理を大切にすることも重要です。また、同じ形の同じ種類の作物を全国でつくって全国で売る、もしくは輸出入するだけでなく、地域の中でつくり消費されていく作物も増やすように、政策レベルで変えていく必要もあります。

一方、北欧やアフリカでは、研究や商業目的のために希少な生き物の遺伝子を保存・活用する試みも行われています。しかし、生物多様性の保全はある特定の場所・地域でだけ、特定の絶滅が危惧される種だけを守ればいいというものではありません。研究所という閉鎖された場所だけでなく、世界中のあらゆる場所で保全していく必要があるのです。


バングラデシュで伝統的な種子を保存

HFWはバングラデシュで有機農業を推進し、伝統的な農作物の保全を進めています。

1960年代から国をあげて農業の近代化を進めてきたバングラデシュ。しかし、伝統的に育ててきた作物は近代農業の肥料や農薬と合わず、多くの農家は次第に伝統種を栽培することを辞めてしまいました。そのためHFWが事業を開始したばかりのころは、多くの地元の農家が、昔からある種子を大事にしていませんでした。

ところが、その土地で長い間受け継がれてきた種類の作物こそが、その土地の気候風土に合い病気に強く、農薬や肥料に頼りすぎずに育てられるという特徴も。そこで、HFWは、伝統的な種子を貯蔵する小屋を設置し保存することを呼びかけました。いまでは、農家が伝統種を持ち寄り、互いの種子を使いあえるようになっています。

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素焼きのつぼで種子を保存


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