「何をやったか」ではなく「どんな変化を起こせているのか」で測り、報告することに挑戦中
今、NPO業界では、社会的活動の報告を「何をやったか」というアクションで終わらせるのではなく、そのことで参加した人や社会に「どのような良い変化を起こせているのか」という“インパクト”で測る動きが生まれています。
活動によって社会に生み出された価値を、できるだけ換算可能な数値によって図り、可視化しようという試みが社会的インパクト評価です。
このことによって、支援してくださる方の共感と信頼を獲得しやすくなり、さらに多くの支援を集めることができます。
また、社会的インパクト評価をすることで、活動の質の改善もより効果的に実施できるようになります。
活動は、得たい成果に本当につながっているのか、また、その成果は自分たちの活動の影響なのかを分析することで、良いと思い込んでいた活動を冷静に見直すことができるからです。
ハンガー・フリー・ワールドも、今、社会的インパクト評価に少しずつ取り組み始めました。
例)
何をやったか | どんな変化を起こせているのか |
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100名の栄養不良児に栄養改善ワークショップを開始しました。 | ワークショップの内容を住民が家庭で実践し、3年後に栄養不良児が0になりました。 他地域の人々も同様にワークショップを実施し、地域から栄養不良児がいなくなりました |
挑戦して2年半 まだまだわからないことばかり!
インパクト評価 成果と苦悩
6つの項目において、それぞれHFWの取り組みとその成果、そのなかで生じる苦悩や課題とその対策についてまとめました。(2018年10月現在)
モチベーション
取り組み |
●社会的投資の対象として選ばれやすくなり、新たな資金の獲得につながるという期待 ●前中長期の評価活動が不十分なために、活動の質を向上できなかったことが大きな教訓としてあったため、組織的に評価の質の向上が優先課題になっている |
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成果 | ●評価活動が困難であっても、未熟であっても、改善しながらやめないで取り組み続けている |
苦悩と対策 |
●社会的投資を得るためには、どのレベルまで評価の質を高めればよいのか? 必要な評価範囲とレベルの明確化が必要 ●活動担当者の評価へのモチベーションを保つために、活動改善につながった評価事例を共有する ●評価の改善のためには実践による事例蓄積が必要なこと、「トライ&エラー」でよいことを組織内で明確にする |
経費と人材
取り組み | ●評価にかかる経費と工数を確保。事業仕分けと増員も行い、評価のために過度な負担が職員に及ぶのを避けた。※自己財源率が高いために、比較的自由にリソース投入度合の設定ができている |
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成果 |
●時間やお金がないから評価できないという不満の声はない。 ●評価活動と工数管理により、全体的に労働時間の減少、有給休暇取得率の増加 |
苦悩と対策 | ●活動担当者が、計画立案と評価もしており、活動の質の向上に反映しやすい一方、客観性が担保できない。さらなる人材の投入、キャパビルにより、質の良い客観的な評価ができる体制作りが必要 |
定義づけ
取り組み | ●インパクト評価に関する資料とプロボノの助言を基に、インパクト、アウトカムといった基本的な用語について(目標=インパクト、インパクトの妨げになる課題の解決=アウトカム)、インパクトに基づく、指標、指標の定義、指標の取得方法(測定プロセス)、寄与度の証明方法、マネジメントのためのツールも、組織内で統一 |
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成果 |
●全活動国で、統一感のある評価が実現 ●わからないながらも定義したことによる、問題点の明確化 |
苦悩と対策 |
●事例も少なく、資料を読んでも難しく、日本における社会的インパクト評価の定義がよくわからない。そのため、他団体と比較できるような適切な定義づけに向けて改善ができない。日本における基本的な原則や内容、評価範囲、測定手法とツールなどができ次第活用できるよう、情報の入手を心がける。 ●定量化できず評価しづらい活動が一律事業仕分けにならないよう、定量・定性両面の評価をいかに行うか。ニーズ評価、セオリー評価、プロセス評価との統合が課題 |
活動実施
取り組み |
●全活動をインパクト、アウトカムとつながるようにロジックモデルを組んで実施 ●インパクト評価に、経費・工数の管理による効率性の評価、と事前の優先度設定と合わせて、総合的に評価を行い、毎年事業仕分けを実施 |
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成果 |
●ロジックモデルで示した因果関係を踏まえ活動の建つけを見直せるようになった(例:啓発活動に位置付けていた活動を、アウトカムをみて広報活動に移動する) ●活動担当者の主観ではなく、客観性をもった事業仕分けができつつある(工数管理と合わせたことで、効果が高まった) |
苦悩と対策 | ●ロジックモデルの理解が不十分で、求めるインパクト・アウトカムと、アクションに隔たりがある計画を立ててしまい、適切なインパクト・アウトカムを生み出せない活動をしていたケースがあった。ロジックモデルのチェック強化が必要 |
見直し
取り組み | ●毎月のモニタリング、年度の評価・計画立案時に、目標、指標、マイルストーン、戦略、計画など、見直す必要があれば柔軟に変更 |
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成果 | ●変更可能であることで、活動担当者による過大報告や目標・指標の過小設定のリスク回避ができている |
苦悩と対策 |
●見直しが多いと、評価活動に望ましい過去との比較がしにくい ●見直しが多いのは、前中長期でデータがとれていなかったため、ロジックモデルが不完全であったためである。最終評価も正確性の低いものになると予想される。次中期では質の高い評価ができるように、今中期ではデータ取得(事前評価)に注力することとする。 |
報告
取り組み | ●寄付者向け報告で、評価の必要性、基本的な内容、意義・効果について、および中期のインパクト、指標、インパクトに至る毎年のマイルストーンを紹介。報告文章もインパクトを意識した記述に変更 |
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成果 | 特になし(支援者からの批判的な声はないが、強い賛同もない) |
苦悩と対策 |
●アクションと即時的結果のみの報告になりがち。どんなインパクト・アウトカムにつながるのかも、セットで報告することを徹底 ●評価の特性・限界も整理し、支援者(をはじめステークホルダー)に共有し、理解してもらう必要がある |