世界中で生産される食べ物に頼りながら、たくさん捨てている私たち。
毎日繰り返される食の選択は、世界にどのような影響を与えているのでしょうか。
食べ物を捨てる社会
茶碗1杯分を毎日捨てる日本人
日本の食料自給率は38%(カロリーベース)※1。6割の食料を海外からの輸入に頼っています。それにも関わらず、日本では、食べ残しや賞味期限切れなど、まだ食べられるはずの食料が年間523万トンも捨てられています※2。日本人一人当たりに換算すると、毎日茶碗1杯分を捨てている計算になります※3。 大量に捨てるのはスーパーや飲食店でしょ? と思う人も多いはず。でも、実は食品ロスのうち、約半分が家庭からと、意外に家庭から出る量も多いことがわかります。 もったいないと思いつつも、「食べ切れなくて」「おいしくないから」とムダにしてしまった経験、みなさんもあるのではないでしょうか。
※1 農林水産省(2022年) ※2 2021年推計値 農林水産省(2023年)※3 農林水産省(2022年)
食べ物がムダになるしくみと私たち
事業者の食品ロスにも私たちは関係しています。私たちが、見た目のよさや安さを求めるため、容器にへこみがある商品などは、事業者が処分します。運搬にムダが出る不揃いなサイズの農作物などは出荷できないため、生産者が処分しています。 また、私たちの24時間いつでも食べたいというニーズに応じるため、はじめから廃棄を想定したうえで、大量仕入れや生産がされている場合もあります。ほかにも、次々と発売される新商品。それを並べる棚からは、古い商品が撤去され処分されていきます。
このように、ほとんどの人にとって食べられることが当たり前の日本では、「お腹がすいた」という食欲以外の欲求によって食べ物が扱われ、たくさんムダになっているのです。
世界中の資源を消費する日本人
食生活の変化と私たちの選択
戦前の日本の食生活は、自給率の高い主食の米を中心とし、魚や野菜などのおかずが添えてある質素なスタイルでした。けれど戦後は食卓が欧米化し、おかずの種類が増え、その食材には輸入の割合が高い肉や乳製品、油製品が多く使われるようになりました。さらに、高度成長期からは家族全員で食卓を囲む風景が少なくなり、それぞれが食べたいときに食べたいものを食べる「個食」へと変化。女性の社会進出もあり、調理をするのに便利なパンの消費が増え、冷凍・加工食品が売り上げを伸ばしていきました。
また、めざましい成長を遂げた外食産業。居酒屋チェーン、コンビニなどが、私たちに安いメニューを提供するため、賃金の安い海外に生産や加工の工場を移すなど、少しでもコストを抑える努力しています。このような、便利で豊かな私たちの食生活は、もはや海外とつながらずには成り立たちません。
水や土地などの資源もムダに 牛ステーキ1人前=お風呂20杯の水!?
日本の食料自給率はカロリーで試算すると38%、生産額で試算しても63%※4。しかし、日本が海外に頼っているのは、食べ物だけではありません。日本で消費されている家畜のエサ(穀物)は、その多くが輸入です。また、農業や畜産には、土地や水が大量に必要になるため、私たちはそれらの資源も海外に頼っていることになります。 たとえば水。世界で使われている水の約7割が農業に使われています。特に、穀物やそれを飼料として食べる牛の生産にはたくさんの水が必要です。たとえば、ハンバーガー1個(牛肉113g)を作るためには、1,695リットル=500mlのペットボトル3,390本分もの水が使われます※5。
※4 農林水産省(2022年) ※5 国連環境計画 (UNEP) (2018年)
食べる以外に半分が使われる穀物
1/3が捨てられている食べ物
私たちが食べているものの多くを生産している世界の現状にも目を向けてみましょう。たとえば、いま、世界では食用に生産された食料の約1/3がムダになったり※6、捨てられたりしています。FAOの報告書によると、フードロスが与える影響のひとつとして地球環境への負荷が上げられています。世界の温室効果ガス排出量の8~10%が、フードロスによって排出されていると言われています※7。なかでも、先進国に住む私たちは、毎年サハラ以南アフリカの全食料生産(2億3000万トン)とほぼ同量の食料(2億2200万トン)※8を、食べ残しや賞味期限切れなどの理由で捨てていると報告されています。地球温暖化による気候の変化や異常気象によって食べ物をつくる環境が厳しくなるなか、その影響を一番に受けるのは、アジアやアフリカなどの最貧国です。
※6,8 FAO「世界の食料ロスと食料廃棄―その規模、原因および防止策」(2011年)
※7 Mbow et al.(2019年)
お腹を満たすこと以外に使われる食料
世界で消費された28億トンの穀物のうち、主食などの食用として消費されたのは43%。残りの37%が家畜や養殖魚のエサとして、20%が食べ物に添加される加工でんぷんや甘味料、そして石油に代わるエネルギーの一つであるバイオ燃料として消費されています※9。このように、穀物の半分以上が人のお腹を直接満たす以外の目的で生産されているのです。主食として重要な穀物は、国際市場に出回っている量が少なく、不作のときには輸出よりも国民を食べさせる分が優先されてしまいます。 豊かに見える日本の食生活。実は国際的なリスクにさらされている、とても不安定なものともいえます。
※9 Food Outlook、国連食糧農業機関(FAO)(2022‐2023年見込み/2022年)
世界とつながる私たちの食生活
食べるよろこびをわかちあえる世界へ
いま、私たちの毎日の生活が、国境を越えて世界の食料問題に影響を与えています。食べ物の多くを海外からの輸入に頼る私たちの生活も、決して安心できるものではありません。おいしいものをお腹いっぱい食べたい、安全で栄養のある食事で健やかに暮らしたい、大切な人と楽しく食卓を囲みたい。私たちが普段何気なく願っている想いは、世界中どこに住んでいても変わらないとても自然な感情です。しかし、世界ではすべての人が十分に食べられるだけの食料が生産されているのに、11人に1人が毎日お腹を空かせながら生活しています。すべての人が食べるよろこびをわかちあえる世界にするために、私たちにできることを考えてみませんか。
一人ひとりの行動が変える食の未来
日本では、私たち消費者が安心・安全な食を求めたことで、スーパーなどの食料品売り場では産地の表示が当たり前になり、生産者の顔が見える商品が多く並ぶようになりました。さらに、私たちが家族や友だちだけでなく、世界中のすべての人が安心した食生活を送れるような持続可能な食を考えていけば、食料の現場も変わっていくはずです。
そのためには、まずは、私たちの暮らしや食生活を見つめ直す必要もあるのではないでしょうか。食べきれる量だけ買って食べ残しをしない、できるだけ地元の食材を選ぶといったことからはじめることはできるはず。私たちの食、そして世界の食の未来を左右するのは、一人ひとりの行動です。
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