飢餓は食べ物が足りないから起こるのではない、という事実。
どうやら原因のほとんどは、私たちが作り出しているようです。
食べ物が十分にある世界
増えている穀物生産量
いま、世界の飢餓人口は約7億3500万人※1。11人に1人が飢餓に直面しています。 これは食べ物が足りないからではありません。なぜなら、毎年世界では、約27億トン※2の穀物が生産されていて、もしこれが世界に住む80億人に平等に分配されていれば、1人当たり年間337キログラム以上食べられることになります。日本人が実際に食べている穀物は、年間150キログラム※3。世界では穀物に加えて野菜などが生産されていますし、在庫があることを考えれば、すべての人たちが十分に食べられるだけの食べ物は生産されています。
※1 国連食糧農業機関(FAO)(2023年)
※2 Food Outlook、国連食糧農業機関(FAO)(2022‐2023見込み/2022年)
※3 厚生労働省「国民健康・栄養調査」(2019年)
飢餓が終わらないのはなぜ?
それではなぜ、飢餓が終わらないのでしょうか。飢餓に直面している地域が、教育が普及していない、十分な収入が得られないなど、さまざまな課題を抱えていることはもちろんですが、それだけではありません。私たちが毎日食べているものが生産されてから食べられるまでには、加工する、運ぶ、売る、買うなどのたくさんの工程があります。物を運搬するための交通が整備されたことや、食べ物を加工したり、冷凍したりする技術が進歩したことで、世界中で生産された食べ物が、世界各地へ届けられるようになりました。そのような世界では、国境を越えた地球規模の課題についても考えることが大切です。
異常気象による農作物の不作
地球温暖化の影響を一方的に受ける開発途上国
極度の貧困のなかで生きる人たちの約8割が農村部※4に暮らしています。その多くは農業で生計を立てていますが、農作物を栽培できる時期が雨季の数ヵ月に限られていたり、雨水などの自然に頼った農業を行っていたりします。そのため、雨の降る時期が遅れる、日照りが続くなど天候が不順になると、食料の生産に影響します。
近年、異常気象による農作物の不作が世界各地で報告されています。温暖化の原因となっている二酸化炭素の排出を見てみると、そのほとんどが先進国や中国やインドなどの新興国によるもの※5。本当であれば、たくさん排出している国が責任を負うべき地球温暖化によって、開発途上国では自分たちの生活を支えることさえも困難になりつつあります。
※4 Castaneda, et al.(2018年)
※5 European Commissions (2021年)
食生活に与える影響
例えば、西アフリカ・ブルキナファソからは、「ここ数年、雨季に十分雨が降らなかったり、降りすぎたりしている」「原因が何なのかわからない」という声が聞こえてきます。この国の気候は、雨が降り食料を生産することができる雨季と、全く降らない乾季にはっきりとわかれていますが、雨季は6~10月頃の5ヶ月のみ。その期間に1年分の食料を生産して保存し、乾季に備えるため、雨季に雨が十分に降らなかったり、降り始めの時期が遅れたりすると、農業に影響が出てしまいます。十分に収穫できないと、食事の量や回数を減らしたり、使う食材を減らしたりするしかないため、栄養状態が悪化します。また、食材を売ることで現金収入を得て、家族が病気になったときの費用にしていますが、収入が減ると通院を控えるため、病気を悪化させてしまうこともあります。
国境を越えて取り引きされる食料
高くて不安定な国際価格
2022年3月には、穀物輸出国であるウクライナ・ロシアでの戦争により貿易が滞り、主要な食料(穀物、食肉、砂糖、乳製品、油糧種子)の国際価格が高騰しました。気候変動や新型コロナウイルス感染症によりすでに上昇していた食料価格のさらなる高騰は、支出における食費の割合が高い貧しい人々の生活に重くのしかかっています。一方で、世界の穀物生産量は年々増加する傾向にあります。世界経済の中で、「食べ物は十分につくられているのに食べられない人がいる」という矛盾が大きくなっています。
国際市場に翻弄されるしくみ
どの国も、国際市場に影響されないように、自国での食料生産を安定させる必要があります。また、日本のような先進国は、たとえ農作物が不作の年があっても世界中から食べ物を買って手に入れますが、開発途上国には難しいことです。 開発途上国のなかには、主食の穀物を海外からの輸入に頼っている国が少なくありません。これには、植民地時代に支配国からコーヒーやカカオなど、先進国に輸出するための作物の生産を押しつけられてきた歴史が関係していますが、それでは国際市場で作物の価格が変動したときに大きく影響を受けてしまいます。特に、農作物の不作などにより価格が高騰するような場合にはなおさらです。たとえば、1993年に日本で起こった米騒動。冷夏による米の不足で困った日本が世界中から米を買ったその影で、穀物を輸入に頼る開発途上国のなかには米を買えなくなり、飢餓に陥った国があったと報告されています。
食べ物と資源の奪い合い
どうなる?これからの食
人のお腹を満たすだけではなく、牛や豚などの家畜のエサや甘味料、バイオ燃料の原料としても利用される穀物。食料価格が高騰し、世界的な食料危機が起こったことで、食料を安定して確保することへの不安が募っています。そんななか、先進国のなかには、食料を生産する土地までも、アフリカなどの飢餓に苦しむ国々から買い押さえようとする動きが出ています。
世界の人口は増え続けており、2022年現在の約80億人が、2050年には97億人になると予測されています※6。増え続ける人口に見合う食べ物を確保するためには、2013年の倍の食料を生産しないといけないといわれています※7。しかし、食料を増産するにも土地や水には限りがあります。食べ物、さらには食べ物を生産するための資源をめぐる争いが、国同士の大規模な衝突へと発展しないような対策も必要です。
※6 国連 経済社会局 (2022年)
※7 FAO(2017)“The future of food and agriculture:Trends and challenges”
すべての人が生まれながらに持つ「食料への権利」
十分な量の食料が世界で生産されることはもちろんですが、それだけでは世界中のすべての人たちが食べられるようにはなりません。食べ物を買うための収入を安定して得られることや、必要な人の手に届くことも重要です。また、何を生産するかを自分たちで決められること、ただお腹が満たされるだけでなく、安全で、栄養のあるものを食べられることも大切です。
すべての人が生まれながらに平等に持っている「食料への権利」。健康で社会的な生活を送るために必要な十分な量と質の食べ物に、いつでも、身体的にも経済的にもアクセスできるよう、本来であれば各国が責任を果たすべきです。しかし、何らかの問題で実現できない場合は、国際社会や私たちの協力が不可欠です。2015年に日本も含むすべての国連加盟国が採択した持続可能な開発目標(SDGs)では、2030年までに飢餓を終わらせることが約束されています。
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