「飢餓のない世界へ」
日本に暮らす私たちの責任と役割
2010年6月24日、東京・広尾のJICA地球ひろばで、ハンガー・フリー・ワールド(HFW)10周年記念シンポジウムを開催し、約150名の参加者が来場しました。第一部ではバングラデシュとベナンの支部事務局長が報告、第二部では国際機関、政府、企業、市民団体の各分野から5名のパネリストを、コーディネーターに明治学院大学の勝俣誠教授を迎えて議論しました。
第一部 現場からの報告
アタウル・ラーマン・ミトン
HFWバングラデシュ支部 事務局長
バングラデシュは世界で三番目に多い6300万人の貧困層を抱えています。国全体を見れば、穀物を中心に食料は十分に生産されていますが、収入が乏しく食料を買えない人が多いため、人口の約半数は十分な栄養がとれていません。貧困層の多くは小規模農家です。
そこでHFWバングラデシュは費用のかさむ化学肥料や農薬、品種改良された一代限りの種子に頼らない「持続可能な農業」として有機農法を推進しています。成果は収入向上だけにとどまりません。コメなど1種類の換金作物に偏らず、近代農法の普及により廃れてしまった地域固有の多様な種子を復活させ、栄養バランスのよい食文化を守ります。自分たちで食料安全保障を達成することにつながるのです。一般的に食料安全保障とは、すべての人々が生産的で健康的な生活を営むために十分な食料を、物理的、経済的に得ることができる状態を意味します。私たちはそれだけではなく、安全で栄養のある食事の確保、持続可能な農業、貧困を絶つ手段として生産者が自分で生産方法をコントロールできることも加えるべきだと考えています。
ファトゥマトゥ・バトコ・ゾス
HFWベナン支部 事務局長
HFWは十分に食料がない状態だけを、「飢餓」とは考えていません。十分な食事を含め、人間らしい尊厳のある生活を送る上で障害がある状態を飢餓と考えています。それはたとえば、教育や雇用の機会が限られたり、医療サービスが受けられない状態を意味します。活動地ベト村には、かつて小学校しかなく、近隣の町の中学校に通うためには下宿費がかかることから、多くの子どもは進学できませんでした。
そこで、HFWは中学校を建設するなど教育施設を整備し、教育の機会を拡充してきました。しかし、施設だけでは、地域は発展しません。 地域の発展を担い、飢餓のない状態を永遠に維持できるのは、そこに住む人々です。HFWは、文字の読み書き、自分の権利を知ることなど、地域発展の土台となる住民の能力を伸ばすことに力を入れています。そしてゆくゆくは住民が自ら事業を進めていけるよう、栄養改善の知識や衛生管理の知識を持つファシリテーター※を育成しています。今後の課題は、HFWが撤退しても住民の手で事業を継続できるよう、ファシリテーターを含めた住民全体のさらなる能力強化を図ることです。
※一般的には会議の参加者の意見を引き出す進行役。HFWの活動地では、中立な立場から関係者の力を引き出し、地域づくりを促す人を指す。
第二部 飢餓のない世界に向けて、それぞれの責任と役割 ~日本の食の視点から
横山 光弘(よこやまみつひろ)氏
国際連合食糧農業機関(FAO)日本事務所 所長
食料への権利は人間の基本的権利で、世界中のすべての人が持っている権利です。権利の実現に対し、法的な責任を負うのは国家ですが、国際社会や私たち個人にも道義的な責任があります。しかし責任は果たされておらず、世界には10億人を超える飢餓人口が存在し、食料価格高騰や経済不況による所得の低下などによって飢餓問題は悪化の一途をたどっています。国際社会による適切な政策の実施と、そのための資金も必要です。取り組みが加速されるためには、飢餓をなくそうという一人ひとりの意思、社会の気運を高めることが不可欠です。