なぜ、このような不正が起きたのか、また早期に発見できなかったのか。ハンガー・フリー・ワールド(以下「HFW」)は、今回の資金の不正流用問題を、元コーディネーターの倫理観の欠如だけで片付けるのではなく、HFW全体の問題として捉えました。
HFWの危機意識の欠如という観点から、以下の通りマラウイ準支部の問題を分析し、それに対して全ての活動国で不正を予防するための適正化施策を策定しました。
みなさまからの信頼を回復できるよう、すみやかに実施し、再発の防止に努めます。また、今後も適正化施策の進行や成果などについても、みなさまにご報告いたします。(2004.11.16)
適正化施策最終報告
マラウイ準支部閉鎖について(2004年11月16日)
マラウイ準支部における資金の不正流用について(2004年10月22日)
1.採用基準の欠如⇒人材採用基準の作成並びに人事考課
●マラウイ準支部で不正が起きた、または発覚が遅れた原因の分析
採用基準の欠如
ハンガー・フリー・ワールド(以下「HFW」)は、アメリカに本部を持つNGOの日本支部を前身としており、2000年に独立して新たに発足した組織です。発足当時、独立前に日本支部が支援していた開発途上国で、日本と共にHFWとして活動することを希望する人材がいた国が11ヵ国ありました。
HFW日本本部は、その希望を実現しようと検討しましたが、全ての国で直ちに充分な事業を開始するだけの資金や人材、運営能力がないために、本部の戦略(※1)や過去の活動実績を基に、支部の設立(※2)は4ヵ国(※3)にとどめました。 マラウイを含めるその他の7ヵ国は、HFWの青少年組織ユース・エンディング・ハンガー(以下「YEH」)としての活動を継続しました。しかし、当時の各国代表者には、青少年の年代を超える人材も多くいました。そこで、コミュニケーションが取れる6ヵ国を支部設立の準備段階として「準支部」、代表者を「コーディネーター」と呼び、YEHの監督と可能であれば試験的な小規模の開発事業を実施することになりました(※4)。
このような時期、マラウイ準支部の元コーディネーターをコーディネーター役に起用するにあたり、HFWで活動することを希望する本人の意思とYEHマラウイ代表の経歴のみを判断材料とし、採用を決定しました。適正や会計能力、事業実施能力、人材マネージメント能力などを慎重に審査しなかった採用の過程に問題がありました。
●すべての活動国で不正を予防するための適正化施策
人材採用基準の作成並びに人事考課
□2005年3月31日までに、人材採用基準を作成し、それに基づいて、現コーディネーターたちの人事考課を行い、改めて雇用契約を結びます。
※1
本部の戦略:アジア・アフリカ・中南米に拠点を置くこと。また、活動が起動に乗り次第、チュニジア支部が活動国の多いアフリカの支援を行う計画でした。
※2
支部の設立:本部と支部は、「国際支部規約」「支部事務局長の雇用契約書」「業務規程」「雇用証明書」等の各種契約を交わしており、支部事務局長の給与も明確に決まっています。
※3
支部4ヵ国:バングラデシュ、ハイチ、チュニジア、ウガンダ。チュニジアは活動を停止し、現在は3支部となっています。
※4
その他の7ヵ国:インドネシア、ブルキナファソ、ベナン、ガーナ、エチオピア、マラウイ、セネガル。エチオピアは、準支部としての活動を停止しました。
2.会計管理体制の不備⇒会計管理システムの強化
●マラウイ準支部で不正が起きた、または発覚が遅れた原因の分析
会計管理体制の不備
元コーディネーターが来日した際に公認会計士による会計指導を行ったほか、本部担当職員からは会計指導や会計フォーマットを提供していました。
しかし、現地からは指導と異なる方法や偽造による報告が行われており、それを精査する能力に不備がありました。
●すべての活動国で不正を予防するための適正化施策
会計管理システムの強化
□2004年12月31日までに、本部において、各国担当職員に加えて会計担当職員が海外業務会計の精査にあたるよう、海外事業会計機能を強化します。
□2005年9月30日までに、必要とされる支部・準支部において内部・外部監査を実施し、会計管理体制の問題点、事務運営の問題点を把握・分析し、機能する体制を導入します。
3.内部チェック機能の不備⇒内部チェック機能の整備
●マラウイ準支部で不正が起きた、または発覚が遅れた原因の分析
内部チェック機能の不備
マラウイ準支部事務所を運営する人員構成は、元コーディネーターとアシスタント1名、ボランティア1名の3名体制でした。本部担当職員は会計をこの3名体制で行うよう指導していました。しかし、実際には元コーディネーターが独占的に行っていました。
現地において元コーディネーターの業務を把握し、不正を抑止する環境が整備できなかったことが、不正に繋がり、発覚も遅れたことの原因です。
●すべての活動国で不正を予防するための適正化施策
内部チェック機能の整備
□2005年3月31日までに、改善が必要な支部・準支部において、会計処理にかかる職務権限を明確にし、複数の人員が会計業務に携わるようにします。
□2005年3月31日までに、支部・準支部において、業務の指導・監督を行うシステムを導入します。
4.本部の人材の現地滞在期間⇒本部の人材を長期派遣することの是非の検討
●マラウイ準支部で不正が起きた、または発覚が遅れた原因の分析
本部の人材の現地滞在期間
HFWは、現地のオーナーシップにつながるとして、現地に本部の人材を駐在させていませんでした。また、長年ボランティアとして活動を共にしてきた人材がコーディネーターを務めることで、信頼を確保してきたつもりでいました。
一方で、事業の質の向上や、日本における説明責任の強化のために、本部職員の長期派遣も検討していました。しかし、限られた財源の中で、少しでも多くの資金を開発事業に投入したいという意識が強く、また業務量の問題もあり、マラウイ準支部では担当職員による事業のモニタリングや現地事務所での各種指導は、年間2週間程度にとどまっていました。他支部や準支部においても本部職員は長くても年間1ヵ月程度(年によっては複数回)、日本人インターンは1ヵ月半程度でした。
本部から人材を長期派遣し、元コーディネーターや関係者と共に現地で活動をしていたら、証憑の偽造や活動の虚偽報告を抑止する効果があったのではないかと考えられます。
●すべての活動国で不正を予防するための適正化施策
本部の人材を長期派遣することの是非の検討
□2005年3月31日までに、支部・準支部に本部の人材を長期派遣する是非を検討します。
5.組織の能力を超えた戦略⇒戦略と組織の再設計
●マラウイ準支部で不正が起きた、または発覚が遅れた原因の分析
組織の能力を超えた戦略
HFW発足当時、各国のHFWで活動したいという希望に応えるべく、準支部の支部昇格を急ぐ戦略を作成しました。しかし、当時は現地で開発事業の経験を充分に積んだ職員や役員がいませんでした。そのため、開発事業実施に必要な体制や業務内容、業務量の予測が適切になされませんでした。また、不正やボランティアについての概念をはじめ、開発途上国と日本では文化の違いがあることについても、深刻に認識する知識や経験を持ち合わせていませんでした。
そのため、事業展開の計画は組織の能力を超え、不正を防止・早期発見できる適切な体制を築くに至っていませんでした。
例えば、現マラウイ準支部担当職員(2002年6月以降)はマラウイの他に、ハイチ支部及び4つの準支部を兼任し、さらに資金調達・啓発事業にも関わっています。このような膨大な業務量に対し、1名の職員しか配置できていませんでした。そのため、担当職員がマラウイを訪問する時間が限られ、現地における会計指導と事業のモニタリングが十分に出来ず、不正の防止・早期発見が出来ませんでした。
新たに採用した現場経験のある職員や他NGOや国際協力機関から、より積極的に情報を入手・反映し、危機管理能力を高める必要がありました。
●すべての活動国で不正を予防するための適正化施策
戦略と組織の再設計
□2005年3月31日までに、会計にかける時間を充分に確保するためにも、事務局長や開発事業部職員の業務について再検討し整理します。
□2005年12月31日までに、基本戦略、事業戦略、組織の再設計を順次行います。
コンプライアンス(法令・倫理遵守)活動の推進
今回の問題を厳しい教訓に、コンプライアンス(法令・倫理遵守)活動を推進し、高い倫理意識の保持に取り組みます。そして、HFWで働く全ての者が、国際協力に携わる使命を深く自覚するとともに、自らを厳しく律し行動し、みなさまの信頼を回復するよう努めてまいります。
倫理意識の向上のために、以下を実施します。
2005年3月31日までに、本部、支部、準支部において団体倫理規程を導入します。
2005年3月31日までに、本部、支部、準支部において通報・相談制度を導入します。
2005年3月31日までに、支部・準支部において、開発事業実施に際して、支援事業対象者に対して、事業内容の情報開示・告知を開始します。
以上