【対談】理事長 原田麻里子×事務局長 山崎健太 : 飢餓のない世界を創る国際協力NGO ハンガー・フリー・ワールド HUNGER FREE WORLD     
【対談】理事長 原田麻里子×事務局長 山崎健太

明日も明後日も「いただきます」と言える。その当たり前を世界中へ広げたい

【対談】理事長 原田麻里子 × 事務局長 山崎健太

ハンガー・フリー・ワールド(HFW)の理事長・原田麻里子と事務局長・山崎健太による対談をお送りします。食をめぐる環境が厳しさを増すなか、HFWができること、すべきことは何か。長野県のおいしいご飯を食べつつ、食卓から世界を見つめました。

(2023年3月対談 / 2022年 年次報告書に収録)

山崎・原田 いただきます。
原田 今日は早起きして、おにぎりを握ってきました。2年前に移住した鬼無里きなさ(長野市)は水と空気がきれいで、お米もおいしいんです。中身も近くに生えていたふきを使った「ふき味噌」です。
山崎 ふきの優しい苦みと香りが広がって、春の山里の景色が目に浮かぶようです。
原田 ここ数年、お米など食料の自給自足生活を少しずつ始めています。わずか38%という日本の食料自給率の低さや担い手不足など農業の危機的状況も、市場経済のなかで食が置き去りにされたという点は、HFWの活動地と共通しています。自分の食を見直すなかで、飢餓に苦しむ人々を支援し「生きる力」を育むというHFWのミッションを、改めて「自分ごと」化できました。
山崎 子どものために日々食事を作る親ごさんなど、多くの人が食に関わるなかで原田さんと同じような問題意識を持ち、HFWを支援してくださっているのではないでしょうか。ボランティアのみなさんからも、飢餓に陥った人の苦しみは他人事ではない、だからこそ自分も何らかの行動を起こすことで、問題解決の役に立ちたいという思いが伝わってきます。

ふき味噌のおにぎり

豊かな香りが広がる「ふき味噌」のおにぎり

原田 2022年は、気候変動などの影響に加え、ロシアとウクライナの戦争を機に国内でも食料価格が急騰して、世界と日本の「つながり」をより強く実感した人が多かったのではないでしょうか。
山崎 私たちも食品の値上げを経験したことで、開発途上国の苦境への共感や理解は生まれやすくなったと思います。ただ経済や物流の基盤が脆弱な国ほどネガティブな影響は大きく、ウガンダなどではインフレ率が10%を超えることも。同じ値上げでも、事態は日本よりはるかに深刻です。
原田 インフレや食料不足といった開発途上国の現状についても、より多くの情報を発信する必要があります。それと同時に、日本の状況も単に「物価が上がって大変」で終わらせず、国内にいる私たちが、つながりのなかで世界を良くするためには何ができるかという視点も持ってもらえるよう、働きかけていきたいですね。

ウガンダでは製粉所が竣工

一時インフレ率が10%を超えたウガンダ。住民の食と収入を支えるため、HFWの活動地ではトウモロコシの製粉所が建設された

原田 ところで山崎さんは入職から1年経ちましたが、印象に残った出来事はありましたか?
山崎 ベナンを訪問したとき、栄養改善のワークショップの参加者が、先を争うように発言する姿に、元気をもらいました。参加者には「知識を得ることで、自分たちの生活は確実に良くなる」というポジティブなパワーがあふれていました。同時に、平素から住民を巻き込んで主体的に動いてもらうことが、最終的に支援を「卒業」して住民自身で事業を続けてもらうためにも大事なのだと改めて実感しました。
原田 目指すべきゴールは定めつつ、達成に向けて何をすべきか、という議論は住民主体で進める。それが10年先、20年先にも、元気なコミュニティを存続させることにつながるのだと思います。
そういう意味で2022年は、ブルキナファソで以前の活動地が支援を「卒業」したことを受け、2つの村で新たな事業が始まるなど、HFWのコミュニティ支援が実を結び始めた年と言えるでしょう。ベナンで事務局長のファトゥマトゥさんがフランスの国家功労勲章を受けるという、嬉しいニュースもありました。今年も引き続き活動地の自立支援に取り組むと同時に、国内では「世界食料デー」月間でより多くの組織・個人に参加を呼びかけるなどして、食料問題を考える輪を広げていきます。
山崎 コミュニティのサポートや啓発を軸としたHFWの活動は、直接食料を配る支援に比べると、遠回りだと感じる人もいるかもしれません。しかし誰もが自分の食べ物を、自分の力で確保し続けられる状態こそが「飢餓のない世界」。私たちはその実現を目指して活動を続けていきます。
原田 コロナ禍で飢餓人口が増加に転じるなど、状況は決して明るいとはいえません。しかしすべての人が、毎日自分で食事を用意できて、幸せに「いただきます」と言える世界を、少しでも早く実現したいですね。
原田・山崎 ごちそうさまでした。

ベナン出張

住民の姿勢に元気をもらった、ベナン出張

フランスの国家功労勲章を受章したファトゥマトゥ

フランスの国家功労勲章を受章したベナン支部 事務局長のファトゥマトゥ(お知らせ


原田麻里子:2009年にHFW理事となり、2019年理事長に就任。2021年から長野市の山あいで暮らす。

山崎健太:民間企業での通算20年あまりの勤務ののち、食料支援NPOに転じる。2022年、HFW事務局長に就任。