飢餓の定義
- 飢餓とは、長期間にわたり食べられず、栄養不足となり、生存と生活が困難になっている状態
- 健康的・活動的な生活のために、それぞれに合ったエネルギーと栄養が必要
ハンガー・フリー・ワールドの支援で、栄養豊富なおかゆの作り方を学んだ親子。支援がなくても自分たちで健康を守れるよう、現在はこの親たち自身が活動を担っています。(ベナン)
SDGsと飢餓の現状
- SDGs目標2「飢餓をゼロに」を実現するには、経済や環境との関わりのなかで食のしくみ全体を見直すことが必要
- 世界では約11人に1人、約7億3500万人が飢餓に直面。「飢餓をゼロに」の目標とは裏腹に、その数は増えている
では、実際に飢餓はゼロに近づいているのでしょうか。2023年の国連の発表によると、世界では11人に1人、約7億3500万人が飢餓に直面しています。残念ながらその数は2019年と比べて1億人以上も増えており、「飢餓をゼロに」の目標はむしろ遠ざかっているのが現状です。
2030年までの世界の課題を示した、持続可能な開発目標(SDGs)。2番目の目標として「飢餓をゼロに」を掲げている。
飢饉と飢餓。それぞれの原因・解決策は
- 突発的な飢饉とは、一時的に食料が不足してたくさんの人々が栄養不足に陥ること。→ 緊急食料支援が必要
- 慢性的な飢餓とは、継続的に食料を手に入れられずに長期的に栄養不足に陥ること。→ 自立の支援が必要
国連が発表した7億3500万人のなかには、突発的な「飢饉(ききん)」に直面している人と、慢性的な「飢餓」に直面している人がいます。飢饉は、干ばつや洪水などの自然災害、紛争などの突発的な原因によって特定の国や地域で起こります。食料が急激に不足し、たくさんの人々が餓死し、重度の栄養不足に陥るため、原因が緩和・解決されるまでの一定期間、緊急に食料を支援することが必要となります。ニュースで取り上げられることが多いため、注目も集まります。
一方で、より数が多いにもかかわらず、世界から注目されることが少ないのが慢性的な飢餓です。慢性的な飢餓は、「農業の生産性が低い」「雇用賃金が安い」などの地域の課題だけでなく、地球規模の課題が原因で起こります。近年、飢餓人口が増えている主な原因も、コロナ禍など地球規模の課題です。コロナ禍では一時食料の流通が止まり、価格が高騰したほか、多くの人の収入が途絶え、食料はさらに手の届かないものになりました。また、当事国に飢饉をもたらす自然災害や紛争も、各国の相互依存が進んだことで、他国に飢餓をもたらすようになりました。たとえば、穀物輸出国であるウクライナ・ロシアの戦争以来、主要な食料の国際価格の高騰が続き、食の安全を脅かしています。しかし、こうして飢餓が増え、多くの人の命が危機にさらされても、直接の死因は餓死ではなく栄養不足による病死であるため、注目を集めず、解決が後回しにされがちです。そのため多くの人々は、いつまでも十分に食料を手に入れることができず、栄養不足の状態が続きます。このような慢性的な飢餓に対して必要な支援は、将来にわたり自分で食料を手に入れることができるよう自立を支援することと、根本的な課題を解決することです。
家庭菜園を始めた女性。ハンガー・フリー・ワールドは食料を直接支援するのではなく、食料を得る方法を伝えることで、慢性的な飢餓からの自立を支援しています。(バングラデシュ)
飢餓がもたらす影響
- 多くの人の命を脅かす。世界の5歳未満児の死亡原因の約1/2に栄養不良が関係
- 栄養不良は生涯にわたって人々の生活に影響を及ぼす
慢性的な飢餓の影響を最も受けるのは、開発途上国に住む貧しい人たちです。なかでも、成長期の子どもたちが受ける影響は深刻です。
世界の5歳未満児の死因を見てみると、全体の約1/3が簡単で安価な治療費で治すことができる肺炎や下痢、マラリアなどとなっており、死因の約半数に栄養不良が関係しています。つまり、世界では救えるはずのたくさんの命が、飢餓によって失われています。また、命を落とさないまでも、栄養不良は子どもの発育を妨げ、大人になっても十分に働くことができなかったり、知的障害を引き起こしたりします。子どもを妊娠、出産する女性が十分な栄養をとることも、生まれてくる子どもの成長やその後の発育に影響を与えるため重要です。飢餓は、生涯にわたって人々の生活を左右する深刻な問題なのです。
ハンガー・フリー・ワールドの活動
増加する飢餓に歯止めをかけ、1人でも多くの命と健康を守るため、ハンガー・フリー・ワールド(HFW)はアジア・アフリカの4ヵ国で活動しています。HFWの支援は、注目されづらい「慢性的な飢餓」に直面する人々に寄り添い、自分たちの手で食料を得る力を育てる支援です。
たとえば西アフリカのブルキナファソでは、栄養不良の子どもとその親を対象とした栄養改善事業などを実施。地域の栄養状況は厳しく、当時まだ乳幼児だったファディラトゥは極度の栄養不良により、HFWが支援する公立の保健センターで入院することとなりました。保健センターで食事と薬を提供するかたわら、HFWはファディラトゥの親に栄養豊富な食事の作り方を指導。退院後も親自身が自分の力で子どもの健康を守れるように支援しました。このような活動を継続した結果、ファディラトゥは無事に10歳の誕生日を迎え、活動地4カ村でも栄養不良がほとんどなくなりました。保健センターの能力も強化されたため、HFWはこの事業を行政に移譲。その他の事業も住民と自治体が担う体制をつくり、この4ヵ村では支援からの自立が実現しました。現在HFWは、栄養不良に苦しむブルキナファソの他の村で、新しく活動を始めています。
ファディラトゥはたまたまHFWの活動に参加し、救うことができた1人にすぎません。世界で「飢餓をゼロに」を実現するには、よりいっそうの取り組みが必要です。
極度の栄養不良だった乳幼児の頃のファディラトゥ。母親は「HFWが村に来てくれなかったら、娘に対して希望を持てなかった」と話す。
すっかり栄養状態が改善したファディラトゥ。無事に10歳の誕生日を迎えた。