2023.05.19
食べるを守る、だけじゃない
食料安全保障とは? 現状や課題、日本の取り組みを分かりやすく
「食料安全保障」という言葉をご存じでしょうか。生存に必要な食料を確保するだけでなく、誰もがニーズや嗜好に合った食べ物を得られ、活動的な生活を送れる状態を指します。2023年5月のG7広島サミットでも議論されるなど、世界で注目され始めている「食料安全保障」について考えてみましょう。
食料安全保障とは、活動的・健康的に生きるための食料を常に十分得られること
食料安全保障という言葉が使われ始めた時期は、1970年代にさかのぼります。世界的な人口増加と経済成長によって食料消費が拡大し、食料の値上がりなどが人々の生活を脅かし始めたことが背景にありました。
その後、国連食糧農業機関(FAO)は食料安全保障を「すべての人が、いかなるときも、活動的で健康な生活のために、食生活上のニーズや食の嗜好に合った十分・安全な栄養のある食べ物を物理的・社会的・経済的に得られる状態」と定義しました。
飢餓に苦しむ人々へ食料を提供することは、命を救うための重要な支援です。ただ、生存に必要な最低限の食事を一時的に得られるだけでは、食料安全保障が実現したとは言えません。人々が「活動的で健康な生活」を送るために十分な食事を安定して確保するには、紛争や災害などの脅威にさらされることなく、常に自ら食生活の主導権を握っていることが大切なのです。
ハンガー・フリー・ワールドがミッションに掲げる「食料への権利」は、人間の心と体の健康、さらには尊厳を維持するために必要な、基本的な権利です。食料安全保障とは、すべての人が「食料への権利」を常に保障された状態とも言えるでしょう。
紛争、気候変動、コロナ禍、価格高騰……脅かされる食の安全
食料安全保障の現状は、深刻です。その背景の1つは、ウクライナとロシアの開戦で、世界の食料生産・流通が打撃を受けたこと。開戦後、ウガンダではトウモロコシや豆の価格が2倍以上、バングラデシュでは小麦の価格が1.5倍以上に跳ね上がりました。また、コロナ禍も多くの国で食料供給を滞らせました。コロナ禍では、糖尿病などの持病や肥満が重症化の要因となるため、食料安全保障の「健康な生活」を選択できるという側面の重要性も再認識されています。さらに、気候変動による干ばつや洪水も、食料安全保障の大きな脅威です。
低い食料自給率、生活習慣病や肥満のリスク、相次ぐ災害……。日本も、食料安全保障上の課題を多く抱えています。そこで、農林水産省は食の生産強化のための対策として「みどりの食料システム戦略」を策定するなど、取り組みを始めています。2030年度までに食品ロスを2000年度比で半減させるなど、「持続的な消費」もこの戦略の目標の1つ。「食べ残しをしない」など、食料安全保障のためにできることは家庭にもたくさんあるのです。農家や家庭にとっては食の生産・消費を持続可能なものに見直すこと、政府や自治体にとっては健康な食へのアクセスを公正にすることが、食料安全保障のために求められています。
事業系食品ロス削減のため、賞味期限の近い手前の商品の購入を呼びかける「てまえどり」