NGOの基礎力作り~「やりたいけど、できない」から抜け出そう~2 : 飢餓のない世界を創る国際協力NGO ハンガー・フリー・ワールド HUNGER FREE WORLD     

特集

2007.09.03 Special Issue No.15

NGOの基礎力作り ~「やりたいけど、できない」から抜け出そう~

NGOが抱える5つの課題

一口に組織の運営能力を向上させると言っても、組織によって求められる能力や、課題は様々。
高い理想を持つNGOは全てに完璧を求めてしまいがちですが、それは効果的ではありません。
例えば陸上選手の場合、マラソン選手は持久力、短距離選手は瞬発力を中心に鍛えます。
ルールや目的が異なるのだから、それぞれの競技に必要な筋力を鍛えることが有効という考えです。
NGOでもそれは同じ。

何を目的に活動し、その目的を達成するためにはどのような能力が必要なのか、
まず見極めた上で取り組むことが、キャパシティビルディング成功の鍵です。


1. 資金調達 2. 会計管理

「国際協力NGOダイレクトリー」(JANIC)によると、日本で会計年度2年以上の活動実績があるNGOの総収入合計額は、約266億7469万円(2002年)。登録NGO数で単純に割ると1団体あたり1億1803万円の収入を得ている計算になりますが、これは大規模 NGOがいくつか存在するため。実際には約43.8%の団体が2000万円以下の規模で活動しています。長い歴史を持つ欧米のNGOと比較すると、財務の脆弱性はさらに顕著に見えてきます。オックスファム、ケア、ワールドビジョンなど、主要な団体の年間活動費は500億円を超えており、1団体で日本の NGO全ての活動費を賄えてしまえる程です。

集めた資金をどのように使うか、会計管理能力の向上も課題です。集めるところに気を取られ、管理はついつい後回しになりがちですが、会計は事業が適切に行われているかどうかを示す指針です。適切な管理を行うとともに、頂いた支援金をどのように活用しているのかを、ホームページや会報誌などで公開する義務があります。

3. 危機管理

開発支援にはリスクがつきものです。感染症や交通事故に巻き込まれる危険性はもちろんのこと、活動地域によっては紛争や自然災害に巻き込まれてしまう可能性があります。日本国内に目を向けてみても、セクハラ、法律や人権に関する問題、ボランティアを巡るトラブル、パワハラなど、リスクはいたるところに転がっています。

どんなに優れた防止策をとっていたとしても、問題は必ず発生してしまうもの。万が一発生したときに事業への影響を最小限に抑えられるようなマニュアルを作成するなど、組織としての備えが必要です。

4. 労務管理 5. 人材育成

一説では、平均勤続年数が4年と言われるNGO職員。JANICが2005年に行った調査でも、20代~30代の職員が NGOで働く職員数の約65%を占め、40代の職員はわずか20%という結果が出ており、働き盛りの中堅職員が定着していないことがうかがい知れます。給与の水準が低く家族を扶養できないために、家庭での責任増加に伴い転職する男性が多いこと、育児・介護規定が整っていないうえ、残業が多いため結婚や出産を機に退職する女性が多いことなどが、低い定着率の原因と言われています。

就業規則を始めとする規定の存在自体が珍しかった数年前と比べると、待遇や労働環境には確実な向上が見られます。しかし、十分と断言できるレベルになるには、もう少し時間がかかりそうです。国際協力に必要な専門性を身につけるには、それなりの時間がかかるもの。事業とのバランスを考慮しつつ、長期的な人材育成を行えたり、専門性を持った職員が継続的に働けるような環境作りは、今後も欠かせません。

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あらゆる分野を網羅する、本気の研修メニュー

このような課題を解消してNGOの運営基盤を強化するために、様々な機関によって研修が提供されています。数時間で完結するものから、数日間をかける合宿形式、数週間~数ヵ月をかけて行うものなど、レベルは色々。日本国内だけではなく、必要に応じて海外を訪問することもあります。内容も多岐に渡ります。緊急課題とされている資金調達や人材育成はもちろんのこと、活動をわかりやすく伝えるための広報や開発事業に欠かせない語学の研修、不測の事態が発生した際の組織的な対応方法を学ぶ、危機管理研修など、NGOの運営に必要なあらゆる分野を網羅しているのではないかと思えるほどです。これらは、NGO関係者の間で基盤強化への意識が高まっていることの表れ。現状を認識し、課題と真正面から向き合おうとしています。

しかし、改善点も多く見受けられます。まず指摘されるのが、研修提供者間の繋がりが弱いこと。日常的なコミュニケーション、成果の共有などが十分に行われていないため、似たような研修が散発してしまっているのです。このような状態は、予算と時間の有効活用という観点から、あまり効果的とは言えません。

また、NGO職員は多くの業務を抱えがち。必要と思っていても、参加する時間がなかなかとれず、せっかく開催される研修に参加者が集まらないこともしばしば。研修提供者間には、横の繋がりを強化して成果を共有し、研修の質を向上させること、年間予定を公表して参加しやすい環境を整えることなどが求められています。

受講者側の課題は、受講後の消化不良です。役に立ちそうな手法や考え方を研修で学んだものの、自分の団体に帰ってみると、身に付けた手法や考え方を生かすきっかけがなく、結局そのままお蔵入り……。そんな話を耳にします。「忙し過ぎて取り入れている暇がない」「事務局の受け入れ態勢が整っていない」など原因はさまざまですが、NGOの事務局には、研修内容を共有する場をあらかじめ設けるなど、受け入れ態勢の整備に手腕が問われます。研修で直接向上させることができるのは、あくまでも個人の能力。組織の運営能力を向上させるためには、個人が得た学びを組織に反映させることが欠かせません。


さまざまな団体が提供するNGOへの研修プログラム

(特活)アフリカ日本協議会

アフリカで活動しているNGOを対象に、「NGOから学ぶ! アフリカで活動するNGOのマネージメント」と題した講座を実施(全6回)。人材確保、資金調達、開発支援事業の運営など各NGOの情報や経験を共有し、運営能力の向上を目指す。HFW事務局長の渡邉は、資金調達がテーマの回に講師として参加。
http://www.ajf.gr.jp/

(特活)国際協力NGOセンター(JANIC)

「国際協力を行う日本の市民組織(NGO)の活動の促進および強化を図る」ことを目的に掲げているJANIC。「危機管理・安全管理研修」「アカウンタビリティ能力強化セミナー」「『南』の子ども支援NGO能力強化5ヶ年計画」など、様々な研修を提供している。NGO同士が情報交換や共同事業を行うための幹事役も担う。
http://www.janic.org/

(財)国際開発高等教育機構(FASID)

国内外でさまざまな研修を提供。開発支援事業の計画、実施、評価という一連の流れを運営管理するプロジェクト・サイクル・マネジメント(PCM)と呼ばれる手法の研修などに定評がある。
http://www.fasid.or.jp/


日付を書き込むことで見えてくる、目標達成への課題と展望

では、それぞれの団体に必要な能力基盤を、どのように見極めればいいのでしょうか。最も有効なのは、長期にわたる計画を立てることです。目的を達成するためには、いつまでに、何を実行すればいいのか。具体的な事業の計画に日付をつけることで、それらを支えるために必要な組織の運営基盤が明確になります。

HFWは2004年9月に発覚したマラウイ準支部(現在は閉鎖)での資金不正流用事件を受けた適正化施策の一環として、2005年に行われた事務局長会議で中長期計画を策定しました。この中長期計画には「持続発展性のある開発事業」「青少年育成」「啓発活動」「政策提言」の4つの戦略の柱が明記されるとともに、それぞれの戦略の柱における5年、10年後の具体的な目標が示されています。また2006年10月には、最後まで検討が続けられたブルキナファソ準支部での活動について、理事会で存続が決定されました。事業の計画と、それを遂行する体制が明確になったことで、各国の事務局が強化するべき、運営面での課題が見えてきました。

資金調達や労務管理、人材育成など、他のNGOが抱えている課題はHFWにも見られます。しかし、この現状を真摯に受け止め、「飢餓のない世界を創る」ための計画が着実に実施されるよう、事務局は運営能力の向上に取り組んでいきます。


究極の能力強化は、NGO同士の連携にあり?!

抱える課題の全てをHFW一団体だけで解消するのは、とても困難なことです。そこで、大きく役に立つのが他団体との協力です。規模や歴史、活動形態などが違うそれぞれの団体は、運営面での得意分野も異なります。研修などを活用して団体の運営能力を地道に向上させながら、身についた得意分野で苦手とする分野を相互に補い合えば、それぞれの基盤が向上します。例えば、HFWが適正化施策の一環として作成、改訂を行ってきた、就業規則やスタディツアーでの対策マニュアルなどは、他団体による複数の先例を参考にして作られたものです。

4つの戦略の柱に沿って本格的な活動を進める今後も、他団体との連携は欠かせません。「ほっとけない 世界のまずしさ」「TICAD市民社会フォーラム」などへの加入により、政策提言能力を少しずつ身につけていきます。


市民からの要求は、より一層の信頼を得るチャンス

日本の国際協力NGOがキャパシティビルディングに取り組むようになったきっかけの一つは、市民からの要求の高まり、つまりは説明責任の重みが増してきたことにありました。説明責任の増大を負担だと考えず、市民がNGOに関心を寄せているいい傾向だと受け止める。その上で、市民に対して説明責任を果たせる組織体制を作ることができれば、市民からより一層の信頼を得ることができるでしょう。

市民に支えられるボランティア団体から、市民と共に活動する国際協力のプロフェッショナルへ。HFWが脱皮を図るべきときが目の前に迫ってきています。

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