2009.06.01 Special Issue No.24
命を救う、幼児教育 ~飢餓や貧困に直面する子どもたち。就学前の学びと発達~
INDEX
- P1命を救う、幼児教育
- P2開発途上国の幼児教育の可能性 1
- P3開発途上国の幼児教育の可能性 2
開発途上国の幼児教育の可能性 2
冨田:これまでのお話で、幼児教育は多くの成果を生み出す可能性があることがわかりました。開発途上国で幼児教育を発展させていくためには、何が必要でしょうか。
浜野先生:まずは、開発途上国政府が幼児教育の役割を認識し、適切な制度をつくることです。例えば、現場の先生の裁量を重視する指導要領の作成や、子どもの個々の発達をみてカリキュラムを組める先生を育成することが重要だと思います。ただ、国・地域ごとの文化や特徴によって必要なカリキュラムは違ってきます。戦後の日本も、ときには米国、ときにはドイツなどさまざまな海外の幼児教育方法を取り入れて日本流にアレンジしてきた経験があります。私が研修のために受け入れている中西部アフリカの先生にも、単に「日本式」を持ち帰ってもらうのではなく、お互いの対話の中からその国や地域にあった教育内容や指導方法を生み出すようにいっています。
また、そもそも幼児教育が普及していない原因の一つは、予算面での優先順位が低く、政府からの財政的支援が乏しいことが挙げられます。また、援助国からの支援も少ないことも原因の一つです。幼児教育は、「1+1=2」のように普遍の回答があるものではありません。文化の違いにも踏み込むことにもなるため、援助しにくい分野ともいえます。開発途上国の幼児教育についての研究や実績も、十分ではありません。
開発途上国政府にも援助側にも幼児教育が重要であるという認識を持ってもらうために、HFWのようなNGOが果たせる役割は、幼児教育の成功例やモデルケースをつくっていくことだと思います。そして私たち研究者は、教育だけではなく保健や栄養面でも成果があることを、研究を通し、広く情報発信することが任務だと感じています。
冨田:今後のベナンでの幼児教育事業に役立つアドバイスもたくさんいただきました。HFWとしても、しっかりと実績を積み重ね、その成果を伝えていきたいと思います。
幼児教育はどこの国の子どもにとっても重要です。特に開発途上国の農村地域では、子どもたちの命を救い、将来の可能性をひらき、地域をつくる役割もあります。しかし、幼児教育の効果とその重要性はあまりに認識されていません。開発途上国の政府予算でも援助国による支援でも、優先順位が低いという現状があります。
幼児教育が、小学校に上がる前の補助的な教育機会としてだけ位置づけられているままでは、開発途上国政府にとっても援助機関にとっても、初・中等教育のほうが優先順位は高くなり、幼児教育への投資や支援は後手にまわってしまいます。しかし、幼児教育を普及させることで、子どもたちの定期的な健康診断や給食提供などが可能になり、栄養改善や病気の予防、健康管理を行うことができます。幼児期に強い身体をつくることにより、成人になってからの病気を予防できます。
また、女性の社会参画や、小さい子どもの世話をするために学校に通うことのできなかった女子の就学の手助けの役割もあります。このような役割を認識し、保健、就労環境改善や社会保障といった政策の中に幼児教育を位置づけることで、その重要性への認識は高まり、普及が進むはずです。
そのためには、各国が積極的に幼児教育を支援できるよう、国際機関やNGOなどが中心となって、地域社会のニーズに根づいた幼児教育のモデルづくりと、情報発信を行うことが必要といえます。
浜野先生がコーディネートする日本での幼児教育研修の一コマ。講義のほか、日本の幼稚園視察や教材づくりワークショップなどが行われた。セネガル、マリ、二ジェール、ブルキナファソ、カメルーンの中西部アフリカ5ヵ国の幼稚園関係者が参加。