働く子どもたち ~児童労働のいま~ 2 : 飢餓のない世界を創る国際協力NGO ハンガー・フリー・ワールド HUNGER FREE WORLD     

特集

2010.09.01 Special Issue No.29

働く子どもたち ~児童労働のいま~

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INDEX

どうして過酷な仕事をする子どもたちがいるの?

なぜ、こんなにも多くの子どもたちが働かなくてはならないのでしょうか。

原因の一つは貧困です。お父さんお母さんの収入だけでは家族が食べていけない、親が病気で働けない―、そうなれば、たとえ5歳の子どもでも、何かしらの仕事を得て家計に貢献せざるをえません。そして教育を受けられないこと。学校が遠い、先生が足りないといったことから学校に通えない子どもたちは世界に6100万人※。多くは学校へ通わずに働きに出ることになってしまいます。実際に、ブラジル政府が1995年に行った「すべての子どもに教育を」プログラムでは、1300万人の子どもたちが学校に通うようになり、児童労働が減ったといいます。

※出典 UNESCO「Policy paper32/Fact sheet44(2017)」

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バングラデシュのレンガ粉砕場。炎天下12時間働いて約40円の賃金

また地域の慣習も影響します。たとえば西アフリカでは、子どもを親戚や知人の家に預けて働かせることが大人への第一歩であるという昔からの考え方があります。そのため、大人たちの間では、子どもを働かせることが大きな問題とみなされないのです。かつては親戚の家でお手伝いすることで社会性を身につける慣習でしたが、最近では早朝から夜中まで家事使用人として働かされ、食事も満足にとれないといった労働に変わりつつあります。それは貧富の差が広がったことも一因です。裕福な家庭では女性の社会進出とともに家事を担う人がいなくなり、農村から貧しい家の女の子を連れてきて、まるで奴隷のように家事をさせるケースが増えてきています。

そのほか、人身売買など犯罪の犠牲となって児童売春に従事させられる子どもたちもいます。いい仕事があるからと騙されたり、ただ都会に遊びに行っただけで連れさられてしまったりという危険が、日常的に子どもたちの周りに潜んでいるのです。

このような子どもを取り巻く環境だけでなく、経済のあり方にも原因があります。子どもの労働によって生産された製品は、世界中に流通しています。2000年には、チョコレートの原料であるカカオ豆の栽培農園で、人身売買で連れてこられた子どもが強制的に働かされている問題が報道されました。子どもは大人に比べて従順で反抗できないために、安い賃金で際限なく働かせられ、いつでも解雇できる便利な労働者としてみなされ、その労働力の上に経済活動が成り立ってしまっているのです。チョコレートに限らず、製品をいかに安くつくるか追求し、生産工程における労働者への配慮に欠ける経済のあり方そのものが、子どもを労働者として搾取するしくみを生み出したといっても過言ではありません。


解決に向けて

このように、児童労働の原因は一つではなく、解決のためには貧困の解消と同時に地域の大人の理解を促すこと、教育を普及させること、子どもを含めた労働者を搾取しない世界全体の経済のしくみの改善が必要です。

世界では、さまざまな取り組みが進んでいます。1998年のILO総会では、労働における基本的原則及び権利に関するILO宣言が採択され、すべての加盟国に児童労働をなくす義務があると定められました。2006年には、西アフリカ・中央アフリカの26ヵ国が子どもの人身売買対策をとり、行動計画をまとめるという協定を結びました。オランダで2010年5月に行われた児童労働の国際会議では、児童労働を防ぐためにもっとも大切な手段として、教育の普及、すべての人に働きがいのある人間らしい労働を促進することの二つが提起されるとともに、2016年までの最悪の形態の児童労働の撤廃を目標とすることが話し合われました。※

※その後2015年に国連で採択された持続可能な開発目標(SDGs)では、目標8のターゲット7で「2025年までにあらゆる形態の児童労働を撲滅する」と明確に謳っており、実現に向けた国際社会の努力が始まっています。

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ウガンダで元気に遊ぶ子どもたち。こうした時間が子どもの発達を促す

国家間の取り組みに加え、2002年の日韓ワールドカップ開催の際には、NGOが中心となりサッカーボールを縫う子どもを救おうというキャンペーンを行いました。その後、スポーツ用品メーカー、ILO、ユニセフ、世界サッカー連盟、NGOが協力して、児童労働をなくし、働いていた子どもたちが学校へ通えるよう支援するプログラムを実施しています。こうした児童労働に対する国際的な世論の関心の高まりを受け、日本でも、生産工程に児童労働を入り込ませないよう、取引先にルールを提示する企業が現れてきています。

私たちにできることは、まず児童労働について知り、関心を持つこと。日本ではNGOなどによる児童労働ネットワークに参加することもできます。それが世論をつくり、国際社会や企業の取り組みを後押しし、児童労働のない世界につながっていきます。


幼児教育で、地域に教育の大切さが浸透。児童労働を防ぐ

HFWは西アフリカ・ベナンの農村部ベト村で幼稚園を運営しています。公用語であるフランス語の教育に加え、手洗い習慣など衛生指導も行っています。

保護者たちは、子どもが清潔に暮らすようになった、小学校でも成績がよいなど、幼児教育がもたらす変化に驚いています。同時に幼稚園に毎日お送り迎えすることが楽しみになった親が増えるなど、教育の大切さが浸透しつつあります。子どもを学校に行かせようという強い意識を地域に根づかせることが、児童労働を防ぐことにつながります。

児童労働ネットワーク(Child Labour Network Japan)

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毎年、6月12日の児童労働反対世界デーの前後にキャンペーンを行い、児童労働をなくすためのさまざまなイベントやオンライン署名などを実施しています。

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