2010.12.01 Special Issue No.30
食べ物を捨てる私たち ~どうしたらムダをなくせるの?~
INDEX
- P1食べ物を捨てる私たち
- P2どうしたらムダなく活用できるのでしょうか?
- P3それでもゼロにならないなら
それでもゼロにならないなら
食品ロス削減のための努力は続ける必要がありますが、どんなに努力をしても、ゼロにすることは困難です。 注文を受けてから生産する形でない限り、生産・仕入れ・販売の量をぴったり合わせることは不可能だからです。しかも、食材は基本的に農水産物であり、天候など自然環境に影響を受けるため、生産量や生産される時期を完全にコントロールすることはできません。そして、食べる私たち人間は、今日は食事をとらず明日は5食とる、今日は野菜だけ明日は魚だけなどと供給に合わせて食欲や食べる物の種類をコントロールすることは難しく、毎日3食、食べたいものをバランスよく食べられることが、心と体の健康にも必要です。
まだ食べられるものを必要なところへ届けよう フードバンク活動
そこで、発生してしまう食品ロスを活用する「フードバンク活動」が広がっています。
これは、安全には問題のない規格外品や賞味期限が間近となった食品を企業から寄付してもらい、福祉施設などへ無償提供する活動で、日本ではNPOや社会福祉協議会がその担い手となっています。欧米のフードバンクの歴史は長く、「平成21年度フードバンク実態調査報告書」によれば、アメリカでは年間200万トンもの食品が必要な人々へ届けられています。日本では2000年ごろからフードバンク活動がはじまり、2009年には約1000トンの食品が廃棄されず、必要な人々へ届けられました。まだまだ欧米に比べれば規模は小さいものの、確実に活動は浸透してきています。
年間約560トンを届ける、日本初のフードバンク、セカンドハーベスト・ジャパン
同報告書によれば、企業がフードバンクに協力する背景として、日ごろから、食べられるものを捨てることに対する、担当者または経営者のもったいないという意識が根幹にあり、資金的なメリットがなくても取り組む事例が多かったといいます。一人ひとりのもったいない、という気持ちが食品の活用、フードバンク活動を後押ししていることがわかります。
また、どうしても食品ロスを含め廃棄せざるを得ない食料が出てしまうという前提で、それらを再生利用するという考え方が広まっています。生ゴミを堆肥にして野菜をつくる、賞味期限間近のお弁当を家畜のエサとして活用する、といったことです。平成12年の食品リサイクル法施行をきっかけに、取り組む事業者が増えてきました。この法律では、食品の製造、流通、消費、廃棄等の各段階に携わる関係者が一体となって、まず廃棄の発生を抑え、それでも出てしまうものを堆肥や飼料にするなどして再生利用すること、再生利用が難しい場合は脱水・乾燥させて廃棄量を減量させることを推奨しています。強制力は乏しいですが、再生利用などの実施率は、食品産業全体で平成13年度の37%から平成18年度の53%へ、着実に向上しています。
ところが、食料廃棄量、食品ロス発生量に関しては横ばいで、まだまだ成果は出ていません。原因の一つは、製造や加工の段階では廃棄物の分別がしやすく再生利用しやすいため、実施率は60→80%へと増加したものの、外食産業や小売業界からは多様な廃棄物が少しずつ発生しているため分別しにくく、再生が煩雑でコスト高となるため、再生利用などの実施率は15~20%→20~30%と、あまり取り組まれていないことです。しかし少数ですが、もったいないから、消費者の声に押されて、あるいは企業の責任として、積極的に再生利用に取り組むという事業者も出てきています。なお、家畜の飼料については、食品に含まれている添加物の安全性などが議論され、安全性確保のためのガイドラインが整備されています。
地域ぐるみで生ゴミを堆肥にして農業に活用している例もあります。山形県長井市は全9000世帯のうち、市内中心部に暮らす5000世帯が日々の生ゴミを市に提供。堆肥センターで堆肥にされたうえで市内の農家に販売されています。きっかけは、地域の衰退を憂慮した市長がまちづくりプランを考える市民会議の開催を呼びかけたことでした。会議では、市民の発案で「台所と農家がつながるまちづくり」という理念が誕生。そもそも市民がはじめた取り組みであるため、生ゴミ堆肥化の一番のハードルとなる分別は各家庭でほぼ完ぺきに行われ、全国で一番分別されていると評されるほどです。
食べ物を大切にする“しくみ”をつくるために
こうした事業者、行政、NPO、そして市民によるさまざまな取り組み。共通しているのは、たとえ手間や費用がかかっても、食べ物を大切にしたいという一人ひとりの思いによって、食品ロスの削減や再生利用が支えられていること。食べたいときに食べたいものが食べられる便利な暮らしを求め、廃棄を増やしてきた社会。しかし今、その問題に気づいた私たちは、店や商品を選ぶことで企業の意識を変え、取り組みを加速させることができます。
一朝一夕、一つの解決策だけでは前進できませんが、あらゆる人・組織が、社会のあらゆる場面で食料廃棄や食品ロスに意識を向けていくことが重要です。
参考:農林水産省ホームページ「食品ロスの削減に向けて」、農林水産省ホームページ「食料自給率の部屋」、『平成21年度フードバンク活動実態調査報告書』(三菱総合研究所)、長野県食べ残しを減らそう県民運動ホームページ、おいしいふくい食べきり運動ホームページ、レインボープラン推進協議会ホームページ、食品リサイクル法ホームページ