自然災害 貧困が招く大きな被害 ~もしかして人災?~ : 飢餓のない世界を創る国際協力NGO ハンガー・フリー・ワールド HUNGER FREE WORLD     

特集

2005.08.01 Special Issue No.9

自然災害 貧困が招く大きな被害 ~もしかして人災?~

突然の大地震、迫り来る濁流、荒れ狂う暴風雨、大地も凍る厳しい寒波……  大自然が猛威を振るう前では、私たちはなす術がないような気がします。しかし、その被害を見ると、“持つ者”と“持たざる者”との格差が浮き彫りになってきます。


2004年は1億4000万人が被災

2004年に起こった大規模な自然災害は366件あり、約32万人の命を奪いました。そのうち約30万人がスマトラ沖地震・津波の犠牲者です。被災者は、同地震・津波の160万人を含め、約1億4000万人。その半分以上を占めているのは、中国、バングラデシュで起きた洪水による被害者です。

※ 国連国際防災戦略(ISDR)、2005年2月。ベルギーにある災害疫学研究所(CRED)がまとめた数字で、死者10名以上などの災害が対象。

年々、増加している災害

大規模な災害は、ここ数年で急増しています。災害による死者数は、30年前と比べると半減しているものの、災害件数、被災者数、経済的損失は右肩上がりです。災害の数と経済的損失は1970年代の3倍以上にもなっています。

私たち人類が、大気を汚染したり森を切り開いたりと自然を破壊し続け、自然のサイクルを狂わせてきたツケがまわってきているかのようです。

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出典:災害疫学研究所(CRED)国際防災データベース2003 (干ばつ、地震、疫病、極端な気候の変化、凶作、風水害、産業事故、害虫被害、その他の事故、地滑り、運輸関連の事故、火山の噴火、高波・高潮、森林・原野火災、風害を含む)


開発途上国に集中する被害

場所も時間も人も選ばないのが自然災害のはず。しかし、自然災害がもたらす大規模な被害は、貧しい国々に集中しています。被害額は、経済規模の大きい先進工業国の割合が高いものの、1990年から1998年までに起きた大規模な自然災害568件のうち、94%が開発途上国で発生し、犠牲者の97%以上が開発途上国の住民でした(世界銀行)。
なぜ、開発途上国では被害が大きくなるのでしょうか?


貧しさのために“備え”ができない

国や地域に求められる災害への対応は4つあります。防災としての「減災」、「事前準備」と災害発生後の「災害応急対応」、「復旧・復興」です。このうち特に、建築物の耐震化、ダムなど防災施設の建設などの「減災」と、防災訓練の実施、予測される危険区や避難経路の地図(ハザードマップ)の住民への提供などの「事前準備」が、被害を最小限にとどめるために重要となってきます。しかし、多くの開発途上国は貧困のために、この減災と事前準備への投資ができず、いざ災害が起きると多くの犠牲者・被害を出してしまいます。

特に開発途上国の都市化が進んでいる地区では、開発を急ぐあまり災害を想定しないまま、高層ビルなどが次々と立てられ、人口も急速に増加。災害に弱い都市が生まれています。

また、このような都市の多くは自然破壊が進み、被害を大きくする一因となっています。2004年9月にカリブ海地域で猛威を振るったハリケーン「ジーン」。ハイチを通過した際には、人口800万人の同国で、死者1870人、行方不明者884人、負傷者2620人、被災者29万8926人、避難所生活者 1万4048人という被害を出しました。

ハイチでは、無計画な伐採により森林は国土面積の2%未満しか残されていません。そのため大規模な洪水や土砂崩れが起こり、カリブ海地域の中でも特に大きな被害を受けたのです。(国連人道問題調整事務所、2004年10月4日)

個人の生活を見ても、富裕層の人々は保険に加入したり、耐震・免震構造の家屋に住んだり、非常食を貯蔵したり、被災時に遠方に避難したりと、充分な備えもできるでしょう。しかし、日々の暮らしにも困窮する人々は”いつか”くる災害に備える余裕を持つことができません。テレビやラジオを持っていないなど、行政などが流す災害情報にアクセスする手段も少ないといえます。

※台風・ハリケーン・サイクロン…… 熱帯低気圧の構造を持っており、同一の気象現象に分類できる。呼び方が地域によって異なり、日本を含む北西太平洋・アジアでは台風(typhoon)、北中米ではハリケーン(hurricane)、その他の地域ではサイクロン(cyclone)と呼ばれている。

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森林伐採が進んでしまったハイチの山


被害額が国の一年の総生産額を上回ることも

開発途上国は、経済規模が小さいため、災害にあっても被害額は先進工業国よりずっと少なく、あまり注目されないことがあります。しかし人口が少ない小国では、被災者数が少なく見えても、全人口に対する割合が高いことがありますし、国内総生産(GDP)に占める被害の影響をみると、実に深刻です。

1988年のアルメニア地震の経済被害はGDPの約1.8倍、1996年のモンゴルの森林火災は同国GDPの約半分に及びました。(阪神・淡路大震災の被害額は、GDP比2%)。

開発途上国がこのような事態に見舞われると、自力で復興するのは大変なことです。国際社会からの救援はあるものの、長期間、多額の予算が復興に費やされることになり、貧困が深刻化していきます。


NEXT 災害は必ずくる。だから“備え”が大切。