前方に加盟各国の国旗が掲げられ、両サイドにはモニター画面が発言者を映し出す本会議場
2014年10月13日から18日にかけ、ローマにある国連食糧農業機関(FAO)本部において、第41回世界食料安全保障委員会(CFS41)が開催されました。約800名が参加した今回のCFS41では、政策円卓会議という大きな会合の2つのテーマとして、「持続可能な食料システムの文脈における、食料ロス・廃棄(FLW)」「食料安全保障と栄養のための持続可能な漁業と養殖」が選ばれ、議論されました。またその後の議題では、「ポスト2015における食料安全保障と栄養」や、「食料への権利の10年」、「責任ある農業投資原則」、「家族農業」などのテーマが扱われました。 このうち、HFWも力を入れて取り組んでいる「食料ロス・廃棄」および、「食料への権利の10年」の2つのテーマに絞って、期間中に行われた議論を紹介したいと思います。
「食料ロス・廃棄」について
食料ロス・廃棄についての政策円卓会議では、食料栄養安全保障の専門家によるハイレベルパネル(HLPE)が2014年に発行した報告をもとに、議論が行われました。食料ロス・廃棄とは、“人間が消費することを目的とした食料の、収穫から消費にいたるまでの食料チェーンのあらゆる段階における、食料の量的減少”のことを指します(FAO)。 CFSでは、食料ロス・廃棄は現在の食料システムの仕組み自体が生み出してしまうものであること、あらゆる関係者が個別的・集合的に対処することにより、持続性を高め、食料安全保障や栄養向上を推進する必要がある、と指摘されました。
HLPE報告書では、食料ロス・廃棄が発生する原因や、食料ロス・廃棄をなくすための方策は、個人の生産者や消費者といった小さなレベルから、国の政策といった大きなレベルまでのさまざまなレベルで考える必要があるとして、それぞれ詳細な分析がされています。本会議ではそれらの分析を元に議論がされました。民間セクターやWFPからは、貯蔵システムがないことにより、開発途上国の農家が悪影響を受け食料ロス・廃棄が増えていることが指摘。またオーストリアや市民社会メカニズム(CSM)からは、形の悪い農産物をスーパーで配る消費者啓発キャンペーンや、学校での食料ロス・廃棄に関する教育を政府主導で実施し効果があったこと(オーストリア)、ファーマーズマーケットのように消費者が生産者から直接買ったり、地産地消を推進することが食料ロス・廃棄削減につながるなど、啓発を通じて消費者意識を高めることが食料ロス・廃棄削減のために重要である、という指摘がされました。HFWも一般の方を対象にした啓発活動の中で、食料ロス・廃棄をなくそうという取り組みをしていますが、その意義と有効性が改めて確認できました。
また、それぞれの関係者が、食料ロス・廃棄削減のための効果的な戦略を作り対策を取るべきであること、お互いに一層協調すべきであることなども訴えられました。特に戦略作りと対策においては、各国政府の役割が大きいことを強調。たとえば、民間セクターや市民社会組織、地方行政など幅広い関係者が参加する、食料ロス・廃棄削減のための包括的な枠組みを政府が推進したり、食料に関係する政策と食料ロス・廃棄削減の取り組みとが相乗効果を生むようにすべきである、と指摘されました。
CSMからは、こうした一連の議論に一定の評価をしつつも、そもそも食料ロス・廃棄が生まれないような、持続可能な新しい食料システムをめざすべきではないか、との重要な指摘がされました。
「食料への権利の10年」について
2014年は、「国家食料安全保障の文脈において十分な食料への権利の漸進的実現を支援する任意自発的指針」(RtFG)がFAO理事会により採択されてから10年の、節目の年でした。「食料への権利」とは、すべての人が生まれながらに平等に持っている権利です。世界人権宣言や、「経済的、社会的および文化的権利に関する国際規約」(以下、社会権規約)などでも規定されているのですが、「食料への権利」としてまとめて切り出され、その重要性が国際的に広く認識されるようになったのは、RtFGの存在によるところが大きくあります。
CFSではこうしたRtFGの貢献を称えつつ、今後CFSが、「食料への権利」の実現に向けて果たすべき役割が再確認されました。そのなかで、CFSの全関係者が、RtFGと政策との一貫性を推進することが推奨されたほか、政策・プログラムの作成や実施においては、最も脆弱な人々を最優先すること、女性のエンパワメントを組み込むことなどが強く呼びかけられました。また、食料安全保障と栄養に関する政策の作成・実施・モニタリング・評価において、NGOが重要な貢献を果たしてきたことも強調されました。
しかし、「食料への権利」の捉え方については、各国や関係者間で足並みがそろっているとは言いがたい状況です。2011年時点で、前述の社会権規約を批准している国は160ヵ国あるものの、同権利が自国憲法に明文化されている国は23ヵ国、言及のある国は33ヵ国に過ぎません(2011年FAO「Constitutional and Legal Protection of the Right to Food around the World」より)。CFS内においても、こうした姿勢の違いが浮き彫りに。エルサルバドルやブラジル、CSMなどが、WTOの貿易ルールによって食料への権利が侵害されているケースがあるとして、「食料への権利」が普遍的な人権として国際的に一層認知され実現されなければならない、と強く訴えました。その一方で、米国やロシアなど一部の国は、CFS期間中に「食料への権利」に関する合意事項を採択することに消極的な姿勢を見せました。
なぜ、普遍的人権であるはずなのに、こうした姿勢の違いが生まれるのでしょうか。本会議と並行して開催されたサイドイベントのうち、「食料への権利と司法へのアクセス(Right to Food Justiciability in Perspective)」(FAO主催)というセミナーの中で、そのヒントとなることが話されました。2014年に食料への権利に関する国連特別報告官に着任したばかりのヒラル・エルバー氏が司会を務めたこのイベントで明らかにされたのは、「食料への権利」は普遍的人権ではあるものの、「食料への権利」としてまとめた形で議論されるようになったのはここ10年と新しい概念でもあり、国際的な認知度が低いこと、そしてさまざまな関係者が絡んでいるために、言論の自由や生存権と比べても権利の関係者の特定が難しく、責任の所在が不明確なことなどです。さらに、「食料への権利」が侵害されている人たちが司法に訴え出て権利を実現するためには、国や地方レベルで法が整備され法的根拠が作られること、人々に訴えるための能力や知識が備わっていること、裁判所に裁く能力があることが必要です。しかし、備わっていない国が多いことが指摘され、まだまだ大きな課題が残されていることもわかりました。
HFWは、活動国において「食料への権利」の実現を求める活動を行っているのですが、行政機関、そして住民自身も同権利の認知度が低いことを実感しています。バングラデシュとウガンダでは、憲法に「食料への権利」が明記されていますし、ベナン、ブルキナファソは社会権規約を批准していますが、その実現には解決しなければならない課題がまだ多くあるのです。「食料への権利」の実現こそCFSの主要目的でもあり、開発途上国の市民を代表する市民社会組織の多くも同権利の実現を求めてCFSに参加しています。FAOの主導のもと、CFSというプラットホームを通じて、今後、「食料への権利」が国際社会の中で主要課題となっていくことを期待しています。
(海外部長、アドボカシー担当職員:西岡)
FAO本部。コロッセオやカラカラ浴場などのローマ時代の遺跡のそばにある
12月に行われたCFS報告会で、一般の人たちにも今回の内容を伝えた
市民社会(CSM)は座席を5つ確保しており、正式に発言権を持っている
解説【CFS】
CFSとは、「食料栄養安全保障に関する、政府間及び多数の利害関係者を最も包括的に含むプラットホーム」(FAO)です。1974年に設置され、2009年に行われた大規模な改組の結果、あらゆる立場の人々を包括的に含められるようになりました。 参加するのは、FAOなどの国連関係機関の加盟国だけでなく、市民社会組織(CSO)やNGO、国際農業研究機関、国際・地域経済組織、民間セクター、慈善活動を行う団体です。CSOやNGOが市民社会メカニズム(CSM)という枠組みに参加できること、そしてこのCSMが他の参加者と対等の発言力を持っているということが、CFSの大きな特徴のひとつ。開発途上国の貧しい農家や先住民など、食料問題の当事者である多様な人々が、食料問題に関する国際的な政策を決定づける場で自分たちの言葉で語り、政策作りに関与できるというのは非常に大きな意義があります。