特集

2009.06.01 Special Issue No.24

命を救う、幼児教育 ~飢餓や貧困に直面する子どもたち。就学前の学びと発達~

お父さんお母さんに手をひかれ、幼稚園や保育園に登園する幼い子どもたちの姿。日本ではよく見る光景ですね。でも、世界では6割以上の子どもたちが、就学前に教育やケアを受けられません。

私たちが幼児教育と聞いて思い浮かべるイメージは、小学校に入る準備としての教育、共働き家庭の子どもの託児というものではないでしょうか。就学前の教育とケアには、子どもにとってどんな意味があるのでしょう。日本や世界の例をみてみましょう。

24_01_01

西アフリカ・ベナンのベト村幼稚園で学ぶ子どもたち


社会とともに変化していく、幼児教育の現場

日本国内で、小学校入学前の子どもたちを保育する施設には、幼稚園と保育所があります。日本初の幼稚園は、1886年に創設された東京女子師範学校(現・お茶の水女子大学)附属幼稚園。主に小学校入学前の予備教育を目的として設立されました。同園をモデルとし、富裕層の多く住む都市部を中心に、幼稚園は急速に広まっていきました。一方、保育所は、1900年ごろから、貧しい子どもたちを預かるための施設として政府の福祉事業の一環として設置されはじめました。

特に、第二次世界大戦直後には、戦争で親を失った子どもたちを保護する場所として保育所は重要な役割を果たしました。十分な食事をとれない子どもたちが必要な栄養をとれるようにと給食が提供され、子どもたちの発育を支えたのです。

その後、戦後の復興、高度成長期を迎え、日本の社会は大きく変化していきます。女性の社会参画が進み、共働き家庭が増加すると同時に核家族化が進みました。それに伴い、幼稚園・保育所は家庭や地域社会に代わり子育てを補完する場所としての役割を求められるようになります。1980年代、幼稚園・保育所を合わせた5歳児の幼児教育普及率は90%に達しました。

今では社会全体が経済的に豊かになり、急速に変化していくなかで、幼稚園でも保育サービスを提供するようになり、両者の違いは少なく、教育と福祉のニーズを一体としてとらえた幼児教育施設への発展が求められています。

現在の教育基本法でも、「幼児教育は生涯にわたる人格形成の基礎を培う場である」とうたわれるなど、託児や小学校へ入る準備としての教育を超えた、人格形成の場としての効果も見直されはじめ、そのカリキュラムは各施設によって磨かれ、多様化しています。


幼いころの数年間が、40年後にも影響

日本の例からもわかるように、さまざまな役割を持つ幼児教育。しかし、世界でも、幼児教育の効果に関する研究や実績データは少なく、その影響や実態は、はっきりと把握されていません。

数少ない研究のなかに、幼児教育を受けた子どものその後を40年にわたって記録したアメリカの研究があります。それによれば、幼児教育を受けた子どもたちは、留年や中退率、犯罪を起こす率、10代で妊娠する率が、幼児教育を受けていない子どもより低く、高校や大学の卒業率、40年後には持ち家率や所得が高いという研究結果が出ていて、幼児教育が人生に与える影響を示唆しています。

必要な子どもたちに届かない

戦後の日本の保育所が果たしたように、今日の開発途上国において、栄養失調や予防可能な病気にさらされている子どもたちを守るために、幼児教育が果たせる役割は大きいといえます。しかし、その普及率をみると、先進国ではほぼ100%に近づいているのに対し、世界全体の5歳児の就学率は約4割にとどまっているという統計もあり、多くの開発途上国では普及していません。

24_02

2000年にユネスコやユニセフにより共催された世界教育フォーラムには181ヵ国が参加し、「ダカール行動枠組み」を採択しました。世界中の子どもたちに教育の機会を届けることを約束したこの枠組みの中でも、“もっとも恵まれない子どもたちに特に配慮した総合的な就学前保育・教育の拡大及び改善を図ること”という項目が挙げられるなど、開発途上国への幼児教育支援は注目されつつあります。

しかし財源が乏しい開発途上国政府は、初等・中等教育を優先することが多いのが現状です。また、援助機関でも幼児教育はユネスコ、ユニセフ、世界銀行、NGOといった一部の組織がごく小規模で実施しているにとどまり、先進国から開発途上国への二国間の援助では、ほんのわずかしか実績がないのが現状です。

開発途上国で幼児教育が普及しないのは、なぜなのでしょうか。また、幼児教育は、開発途上国の子どもたちの生活改善、そして社会開発においてどんな可能性を秘めているのでしょうか。


NEXT P2 開発途上国の幼児教育の可能性 1