地域の事業の推進役による落花生の種の収穫
住民たちと築いた、栄養改善から地域の自立
ハンガー・フリー・ワールド(HFW)は、ベナン・ゼ郡ドジ・バタ地区での活動を、2025年12月をもって終了しました。20年にわたり取り組んできた本事業は、地域住民による主体的な運営が可能となり、一つの区切りとして「自立」に至ったものです。本稿では、その歩みと成果を振り返ります。
ハンガー・フリー・ワールド(HFW)は2005年、ベナンで正式に活動を開始しました。事務所をアボメイ・カラビに置き、ゼ郡ドジ・バタ地区の12の村で活動を展開してきました。
活動当初は「地域開発」「啓発」「青少年育成」「アドボカシー(政策提言)」という4つの活動の柱を軸にし、次第に「食料への権利」を中心に据えた統合的なアプローチへと発展していきました。
めざしてきたのは、住民自身が「食料への権利」を理解し、それを実現できる社会をつくることです。20年にわたる歩みは、地域の人々とともに積み重ねてきた試行錯誤の歴史でもありました。
1,黎明期(2005年〜2010年)
命を守る基盤づくりと栄養改善
活動が始まった当時、ドジ・バタ地区では深刻な栄養不良と衛生環境の問題が広がっていました。2006年にドジ・バタ地区で行ったアンケート調査では、1000人あたりの乳児(1歳未満)死亡率は推計約6.44%に達し、対象となった子どもの52.86%に発育阻害、60%に低体重が確認されました。
また、安全な飲料水が不足していたため、下痢や胃腸炎などの感染症が多く見られました。教育面でも、読み書きができる成人はわずか41%にとどまり、健康や栄養に関する知識が十分に広がっていませんでした。
こうした課題に対し、HFWはまず栄養改善の取り組みから活動を始めました。12の村で毎月調理実習を行い、地元で手に入る栄養価の高い食材を使ったメニューを紹介しました。さらに、村ごとに料理コンテストを開催し、楽しみながら栄養バランスのよい食事を学べる機会も設けました。
同時に、母子保健や幼児教育の環境づくりにも取り組みました。2007年には幼稚園を建設し、2010年には産院を開設。産院には井戸やトイレも整備され、安全な出産環境が整えられました。
さらに、住民が自ら情報を得て生活に活かせるよう、現地語フォン語による識字教育も開始しました。読み書きや計算を学ぶクラスを設け、生活に役立つ基礎教育の普及を進めました。
これらの取り組みによって、300人の栄養不良児が回復し、対象世帯の84%以上で衛生習慣の改善が確認されました。産院の建設によって最寄りの医療機関までの距離は約7km短縮され、これまでに1433件の出産が記録されています。
また、幼稚園には開園以来1184人以上の子どもが通い、502人の子どもが「食料への権利」や栄養の重要性を学びました。
2,展開期(2011年〜2020年)
意識の変革と「食料への権利」の高まり
活動を進める中で見えてきたのは、食料問題の背景にある社会構造の課題でした。
栄養や農業の知識不足だけでなく、土地相続の慣習や女性の権利、行政への働きかけの弱さなどが、地域の食料事情に大きく影響していたのです。また、農業では短期的な収入を優先して焼畑農業が行われることも多く、土地の持続的利用が難しい状況にありました。
こうした状況を変えるため、HFWは地域の人々自身による啓発活動を後押ししました。研修を受けた地元住民が担う啓発専門員や、青少年組織 YEH(ユース・エンディング・ハンガー)のメンバーが中心となり、演劇や歌を通じて「食料への権利」や衛生、土地法、女性の土地所有権などについて村々で伝えていきました。
また、住民が行政に直接声を届けられるよう、10人の地域住民で構成されるアドボカシー委員会を設置し、ゼ郡長など地方行政への働きかけを進めました。
農業分野では、173人の農家が、大豆、トウモロコシ、落花生、ゴマなど栄養価の高い地場産品の栽培技術や、土壌管理の方法を技術研修を通して習得しました。
2017年から2020年までの間だけでも、1万2800人以上がこうした啓発活動に参加しました。その結果、対象地域では女性の33%が親から土地を相続するようになり、女性の社会的・経済的地位にも変化が見られました。また、アドボカシー活動の成果として、「食料への権利」がゼ郡の第3世代ゼ郡開発計画に位置づけられました。
さらに、ゼ郡の村落住民土地管理課(SVGF)に所属する60名の地域リーダーが、土地法に関する研修を通じて知識を深めたことで、30件の土地紛争が解決され、地域の土地管理の仕組みも強化されました。
識字教育も広がり、634人(うち女性359人)が読み書きと計算を習得。帳簿をつけられるようになったことで、農家の収入向上にもつながりました。
3,成熟期(2021年〜2025年)
自立に向けた経済基盤と仕組みづくり
20年にわたる活動の集大成として取り組んだのが、地域の自立です。HFWが撤退した後も活動が続くためには、住民自身が資金を確保し、組織を運営していく仕組みが必要でした。
そこで、女性協同組合の強化が進められました。キャッサバ芋を乾燥させて粒状に加工したガリや大豆製品などを生産・販売する4つの女性協同組合に対し、食品調理施設の建設や機材の提供、運営管理の研修などが行われました。
また、農業の持続性を高めるため、2023年には種子委員会を設立。専門家による技術指導のもと、種子生産の体制づくりと農業技術の向上が進められました。
さらに、プロジェクトの自立化を支える仕組みや体制づくりを目的として、これまでサポートしてきた地域の事業の推進役で組織したモニタリング委員会、地域委員会、事業の対象農家、先輩お母さん(元支援対象者)、YEHを集めた会議が、3回にわたって開催されました。その結果、自立までに達成したい3つの目標に合わせ、栄養価の高い地元の農作物グループ、栄養バランスのよい食生活グループ、意識向上とアドボカシーグループの3つのグループが作られ、それらをモニタリング委員会が監督しながら事業を進めることで合意しました。 住民自身が活動計画や予算管理を運営できるか、リーダーを選出して責任と役割を果たしていけるかなどを示した指針である『自立の指標』を用いて活動を評価し、改善を重ねていく体制も整えられました。
こうした取り組みにより、2018年から2025年までの間に303ヘクタールの農地で地場産品が栽培され、トウモロコシ約272トン、落花生約18トンが収穫されました。農家の90%が焼畑農業をやめるなど、農業の持続性も大きく向上しています。
女性協同組合では、メンバーの71%以上が収入の向上を実感しており、子どもの学費や家庭の食費を支える重要な収入源となっています。
また、87%の世帯が安全な飲料水を利用できるようになり、6棟の共同トイレの整備によって屋外排泄も減少しました。地域の衛生環境は大きく改善しています。
結びに代えて
20年の歩みを振り返って
ドジ・バタ地区の変化は、HFWの支援を契機として、地域の人々が主体となって積み重ねてきたものです。
学校や施設の建設の際には、住民が土地を提供し、建設作業に参加するなど、地域の人々の主体的な関わりが大きな支えとなってきました。
かつて「暗闇と無知の中にいた」と語る住民たちは、今では自らの権利を理解し、地域の未来を自分たちで切り開こうとしています。
ベナン支部事務局長からのメッセージ
親愛なるパートナー、そして支援者のみなさん。
私と支部職員、そしてドジ・バタ地区の地域住民にとって、この20年以上にわたる歩みをみなさんと共有できることは、大きな喜びです。
この活動は、経験を分かち合い、時には自分たちの考えを見直し、地域に受け継がれてきた知識を尊重しながら進めてきた旅でもありました。疑問や不安、失敗や成功を重ねながら歩んできた時間は私たちに謙虚さを教え、誰もがコミュニティの未来を築く役割を持っていることを示してくれました。
HFWは自立をめざす戦略に基づき、2025年12月をもってドジ・バタ地区での活動を終了します。今後は、この経験を新たな地域へと広げていきます。
これまで活動を支えてくれたすべての先駆者に敬意を表するとともに、ドジ・バタで始まった変化の波が、ゼ郡のほかの地域にも広がり、根づいていくことを心から願っています。
みなさまに感謝します。
公衆衛生などの啓発活動を行う、啓発専門員と子どもたち
キャッサバを乾燥させて粒状に加工したガリを製造する、女性組合員たち
住民リーダー向けの係争解決研修


