有機農業と地球の食 ~おいしくて安全なだけじゃない。 育まれる命の循環~4 : 飢餓のない世界を創る国際協力NGO ハンガー・フリー・ワールド HUNGER FREE WORLD     

特集

2008.08.03 Special Issue No.20

有機農業と地球の食 ~おいしくて安全なだけじゃない。 育まれる命の循環~

世界の農業事情と日本の私たち

いま、日本の食料自給率は約40%。食材の多くを輸入にたよっています。輸入農産物のほとんどは、中国やタイをはじめとする中先進工業国や開発途上国で、近代農業により貧しい農民の手で生産されたもの。加工食品、外食産業でも広く流通しています。

日本人の安くて便利な食事は、こうした世界のしくみの上に成り立っています。
では、近代農業の弊害を克服し、貧しい人々が自立し、なおかつ世界の人口に見合うだけの食料生産を行うためには、何が必要なのでしょうか。

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貧しい人々の自立と世界の食料確保に必要なこと

世界では、化学肥料や農薬の使用を減らした新たな技術による農業の革新や、有機農業への転換など、様々な方策が議論されています。中でも、開発途上国で貧しい農民が外部の資源に頼らずに持続可能な農業を推進していき、限られた土地で食料増産を図るという面では、有機農業が有効な解決策といえます。実際に、HFWを含め、多くのNGOや国際機関が、有機農業による農村開発に着手し成果を挙げています。

先進工業国においても、有機農業への転換は、農業を持続可能なものに変えていくことになります。しかし、近代の農業技術の研究は化学肥料や農薬の使用が前提となっており、有機農業の研究は十分に行われていません。今後、試験研究を通じて有機農業における適切な肥料の調製・利用方法などが確立されれば、各農家が有機農業に取り組みやすくなり、有機農業の一層の進展に役立ちます。

先進工業国、開発途上国、いずれにおいてもその土地に合った有機栽培技術を磨き、その技術を交換し、研究を進めていくことが、持続可能でありながら世界の人口に見合う食料を供給するために、必要な取り組みではないでしょうか。


日本の有機農業事情

では、日本での有機農業の現状はどうなっているのでしょうか。日本では戦後、農協が定めた規定にそって化学肥料や農薬を使用する慣行農業が主流となっており、有機農業を行う農家は少数派でしかありません。そして、農薬を使用していても有機肥料を使っていれば「有機農産物」と呼び、農薬を使わないだけで「有機」と表示する状況もみられ、有機農業という言葉を「農薬や化学肥料の使用を減らした農業」として理解している人が多いようです。また、家畜を飼い田畑を耕している複合経営農家は一握りで、多くの有機農家は家畜をもたず、有機肥料を買っています。しかし、近代農業で栽培された飼料を食べた家畜のふん尿で作られた肥料が多いため、結局は自然資源の循環にはなっていない現状があります。

また、土壌を守り育て、病害虫や気候の不順といった自然と闘うためには時間も手間もかかります。化学肥料や農薬を使ったほうが、はるかに小さな労力で栽培でき、農家に強い信念がなければ有機農業は続かないのです。 しかし、世論調査では、慣行農家の7割ができれば有機農業をやってみたいという結果が出ています。有機栽培の技術指導や支援策があれば、今以上に有機農業が広がっていく可能性があります。

そして、何より有機農家の取り組みを支えるのは、生産された農産物を購入する消費者の存在です。しかし、このような農業をめぐる日本の状況は、まだ一般に広く知られていません。


私たちが消費者としてできること

世界の農産物の流通は、各国政府の政策だけではなく、消費者の購買行動によっても決まります。私たちが国産や有機農産物を選ぶ行動は、それを口にする人の健康や楽しみを増やすだけではなく、世界の貧しい人々や地球環境に負担をかけない行動といえるのではないでしょうか。

開発途上国で、日本で、世界で、どんな農業を実践していく必要があるのか、私たち一人ひとりが理解し、日々口にする食べものを選ぶ、その選択が、貧しい人々の自立と、地球の食の確保につながっています。

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アジア学院で有機野菜栽培の指導にあたる荒川治さんに、
有機農業の魅力と開発途上国での有機農業の推進について伺いました。
荒川 治さん
アジア学院野菜作物主任 農場長

アジア学院では、食べものを作れば作るほど、土壌が豊かになり、自然環境がよくなり、人間関係も美しくなる―そんな有機農業の実践を通して、食と命のつながりを創りだそうと、日々努力を重ねています。

有機農業の方法に、一つの正しい答えはありません。その土地の気候や土壌に合った作物を選び、毎年少しずつ変わる季節の変化を見ながら、最適な有機農法を磨いていく必要があります。東南アジアの学生が「モミガラや動物のフンが肥料に使えるなんて!」と驚いていました。日本では当たり前の有機栽培技術が、当たり前でない地域があるわけです。そのため、私たちは、技術を教えるというよりも、その土地に合った有機農業を編み出し、ほかの人に有機の魅力を伝えられる農村リーダーの育成が必要であると考えています。

荒川治さんプロフィール

神戸大学農学部卒業後、青年海外協力隊野菜隊員としてタンザニアに派遣。帰国後、NGOスタッフとしてネパールと東ティモールで国際協力に携わる。2001年4月よりアジア学院野菜作物主任。2008年4月より同学農場長。

アジア学院で農業体験

アジア学院では、毎年アジア・アフリカ諸国を中心とした農村地域より、年間約30名の学生を迎え、中堅農村指導者の養成を行っています。これらの学生と寝食を共にしながら、農作業・実習のサポート・学校運営に必要な業務などをお手伝いして下さる、ボランティア(60日以上・1年未満、又は通い)を受け入れています。

【お問い合わせ】  アジア学院  http://www.ari-edu.org/
〒329-2703 栃木県那須塩原市槻沢442-1
電話:0287-36-3111  Fax:0287-37-5833  E-mail:info@ari-edu.org