見えない“水” 輸入で成り立つ日本の食 ~世界の水危機と飢餓~ : 飢餓のない世界を創る国際協力NGO ハンガー・フリー・ワールド HUNGER FREE WORLD     

特集

2009.12.01 Special Issue No.26

見えない“水” 輸入で成り立つ日本の食 ~世界の水危機と飢餓~

いま世界では、開発途上国を中心に11億人の人々が安全な水を手に入れられず、水道の整備や井戸の設置などさまざまな支援が行われています。その一方、日本人の暮らしは世界から大量の“水” を輸入することで成り立っています――。

私たち日本人が、生きていくために飲んだり食べたりして体に摂取している水は、1日に2.5~3リットル。お風呂や洗濯物、トイレなどの「生活用水」も含めると一人1日あたり314リットル使っています(国土交通省水資源部2004年)。

でも、私たちが消費している水は、これだけではありません。毎日口にしている食料を生産するためにも大量の“水”が使われています。食料の半分以上を輸入に頼る日本は、結果として、地球のどこかで大量の水を使っているのです。

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ブルキナファソのような乾燥した地域では、こまめな水分補給が健康を守る


間接的に使う水 バーチャルウォーター

国境を越えた輸出入が活発ないま、私たちが消費している食料や日用品を生産するために、海外で多くの資源が使われています。水資源もその一つ。輸入した食料や工業製品などをもし自分の国で生産していたら、どのくらいの水を使ったのか―。ロンドン大学のアンソニー・アラン教授は、自分の国で使われていた“はず”の水を「バーチャルウォーター」と呼び、その量を推定することを提唱しました。

これは、海外で実際に使われた水量ではなく、輸入を通して国内で節約された水量を推定することで、どのくらい海外の水資源に頼っているか知ろうというもの。もともとは極端に水が足りないはずの中東地域でどうして水紛争が起きないのかを研究するため編み出されました。現在は、地球の限りある水資源を奪い合うことなく、よりよく分かち合うために、現状を知る“ものさし”として研究されています。

また人間が実際に世界で使っている水の内訳は、生活に1割、工業に2割、そして農業に7割。バーチャルウォーターもほとんどは食料生産に関わる水です。そのため、水問題を考えるためには、農業、食料に注目する必要があります。

たとえば、日本で小麦1キログラムを生産するためには、その2000倍の2000キログラム(2000リットル)もの水が必要です。食料の中でも水を多く使うのは肉。牛や豚のエサとなる穀物の栽培に大量の水が使われるためです。東京大学の沖大幹教授グループの研究によれば、鶏肉1キログラムに4500リットル、豚肉1キログラムに6000リットル、そして寿命が長い牛はその分穀物を多く食べるので、牛肉1キログラムに2万リットルの水が必要です。これらを身近な食べ物に置き換えると、牛丼1杯には2000リットル、ハンバーガー1個には1000リットルが必要です。

日々の食べ物の裏側にあるこうした見えない水まで含めると、日本人一人が1日に消費している水は平均して3000リットル。農林水産省によれば、1995年に実際に世界で使われた水は3兆5720億㎥で、一人1日あたり1756リットル。日本人の3000リットルが多いことがわかります。


食料を通して大量の水を輸入

日本は大量に食料を輸入しているため、バーチャルウォーター量も多くなります。2000年に海外から日本に投入されたバーチャルウォーター量は約640億㎥。国内で1年間に使う水の3/4に相当し、灌漑用水1年分より多い量です。

グラフで見る、日本の食と水輸入

日本は食生活の変化によって、食料自給率(※)が年々低くなっています。主食の米の消費は50年前の約半分に減り、かわりにパンやめん類など小麦粉を使う主食が増え、肉、乳製品、油脂などの消費も増えました。

食肉や乳製品を生産するための家畜を育てるにはエサとして大量の穀物が、油脂をつくるには大豆などが必要です。それらの穀物を輸入に頼る日本が、大量の水を海外で使っていることがわかります。

※日本はカロリーベースの食料自給率を使っているため、畜産物は、飼料自給率を考慮して算出されている。

諸国の食料自給率(2003年)

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出典:食料需給表/農林水産省

日本の穀物の自給率と使い道(2006年)
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※ 穀物ではなく野菜に分類されるスイートコーンを除く
出典;食料需給表/農林水産省   参考;週刊東洋経済2008.2.23号

日本のバーチャルウォーター投入量(2000年)
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バーチャルウォーター投入量に占める品目別内訳(億㎥/年)

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出典;東京大学生産技術研究所 沖大幹教授グループ資料


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