私たちが今日も「食べる」理由 ~すべての人が持つ「食料への権利」~ 3 : 飢餓のない世界を創る国際協力NGO ハンガー・フリー・ワールド HUNGER FREE WORLD     

特集

2009.02.23 Special Issue No.22

私たちが今日も「食べる」理由 ~すべての人が持つ「食料への権利」~3

すべての人が持つ「食料への権利」。実現にはさらなる取組が必要です。

これまで国際社会は、1996年の世界食料サミットや2000年に採択されたミレニアム開発目標(MDGs)などで、2015年までに世界の飢餓人口を半減させることを共通の目標として掲げてきました。

しかし、残念ながら飢餓人口は減るどころか増加し続けています。このような状況の下、6月3~5日に、イタリアのローマで今後の飢餓や食料問題の解決に大きく影響する食料サミットが開催されました。

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食料サミット前日、会場FAO本部ビルの前で農民らが記者会見。空のお皿を手に、食料への権利を訴える南アメリカの農民代表


食料危機を解決するために、世界中からローマに集結

原油や食料価格の高騰、気候変動などが引き起こしている、食料危機。このまま何も対策がされない場合、2008年内に現在の飢餓人口に加えてさらに1億人が飢餓に陥ると見積もられるなど、食料危機は現実の問題として目の前に迫っています。こうした背景から食料サミットへの関心は高く、世界中から180ヵ国、うち42ヵ国は首脳自らがローマを訪れ、食料危機への緊急対策、気候変動やバイオ燃料が世界の飢餓に与える影響について議論しました。

市民社会からもNGOや農民、漁民の市民活動家などが現地入りし、メディアへのアピールや街頭パフォーマンスなどを実施。また、食料サミットに先がけて6月1~4日にシンポジウム「Terra Preta」を開催し、飢餓問題解決に向けた市民社会の声をまとめました。

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FAOなど国際機関からの参加もあった、市民社会のシンポジウム


5大陸から集った市民による解決策

市民社会による宣言文には、次のようなことが盛り込まれました。 まず、過去の食料サミットでも採択された経済成長や大量生産・大量消費を重視する政策は地域の小規模な農業を衰退させ、気候変動に悪影響を与えるため食料危機の解決策にはならないということ。また、食料危機を招いた原因の1つである自由貿易を今の形のままで推進することは、問題解決への道筋をつけるどころか、さらに悪い結果を引き起こすということです。

その上で、今後も飢餓問題に取り組んでいくにあたって、食料に関する政策は実際に食べ物を生産している農民や漁民の考えを尊重して決定されるべきで、その前提となる食料への権利を実現するための行動計画を各国政府は策定する必要があるとの提言がされました。

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食料サミット会場内プレスルーム。約2000人の報道陣が詰めかけた


市民社会とのギャップ

食料サミット本会議でも宣言文を採択。「食料安全保障を中長期的に取り組むべき国家の政策と位置づけると誓う」と明記し、すべての人々に十分な食料を確保するために全力で取り組むことを強調しました。

しかし、貿易問題については最後まで議論を集約することができず、また、バイオ燃料問題でもバイオ燃料を推進する一部の国への配慮から、具体的な対策を導き出すことはできませんでした。食料サミット期間中に各国や国際機関から総額65億ドルを拠出するという申し出がありましたが、使途は必ずしも明確ではありません。加えて、市民社会が重視する食料への権利の言及も限られているなど、市民社会とのギャップが見られました。


食料への権利を実現させるために、必要なこと

今後、食料への権利を実現させるために、どのようなことが求められるのでしょうか。
食料への権利は、国際的な規約として承認されていますが、実現に向けたほとんどの取組は、規約を批准した各国ごとに行われます。しかし、政府だけではなく、市民社会にも果たせる役割があります。
例えば、開発事業を通じて貧しい人たちの農業技術を高めたり、十分な食料を購入するために必要な現金収入を得られるようにすること。あるいは、必要な知識を身につけられるように、教育を受ける機会を提供すること。また、政府に対して食料への権利を実現させるために欠かせない水や土地などの資源を利用できるよう、働きかけていくことなどです。


食べることの喜びや楽しみも感じられる飢餓なき世界の実現を

私たちは、飢餓に苦しむ人々を人間の基本的な権利が奪われている人と考え、食べることを尊重して、飢餓問題解決に向けた取り組みを推進していく必要があります。そうすることで、生命を維持するだけではなく、食べることの喜びや楽しみを感じられる、そんな飢餓のない世界を実現できるのです。

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食料サミットでの議論を、G8サミットに向けた提言の足がかりに

開発事業部ベナン・ブルキナファソ担当(当時)
冨田沓子

TICAD IVが終了した翌日に慌しくローマ入りしました。滞在中は、市民社会のシンポジウム会場と本会議の会場を行ったりきたり。飢餓問題に取り組むHungerFREEキャンペーンの協力もあり、多くの情報を得ることができました。

帰国後は報告会を開催し、G8サミットに向けた提言活動のために他NGOや報道関係者とともに情報を共有しました。今後も、このような各国から市民団体が集う場に、HFWとして積極的に参加していきます。