SDGs目標分野別に5段階評価。「飢餓」は3点をつけた
2016年5月26日、27日のG7伊勢志摩サミットに、HFWはアドボカシーと広報の担当者を現地に派遣。SDGsの達成に向けて行動する他のNGOと連携し、G7サミット市民社会プラットフォームの一員として活動しました。特にHFWは食料に関わる分野を担当し分析、見解と提言をメディアに発信しました。
持続可能な開発目標(SDGS)が採択後されて最初のサミットであり、サミットに先駆け、5月20日にはSDGs推進本部が発足されたばかり。日本は議長国としてSDGsに対する参加国の動きが活発になるようリードできたのでしょうか? また、目標の一つである「飢餓」については、どのように扱われたのでしょうか?
日本が発表したSDGsに関わる主な取り組み
従来のサミットの重要議題は(1)世界経済・貿易、(2)政治・外交、(3)気候変動・エネルギー、(4)開発、の4つから成り立っています。そのなかで今回、日本が議長国としてリーダーシップを示したSDGsの内容に沿った取り組みが、以下の3分野でした。成果として発表された首脳宣言から抜粋します。
1.中東地域への支援
難民・避難民への支援、難民受け入れ国への支援、日本への留学生受け入れ、その他人材育成や地域開発への貢献を発表。
2.保健分野の支援(※これまでも日本がリードしてきた分野)
エボラ出血熱対応などの教訓を踏まえ、対応の遅れで伝染病の被害が拡大しないよう公衆衛生危機への対応強化を発表。すべての人が、適切な健康増進、予防、治療、機能回復に関するサービスを、支払い可能な費用で受けられる仕組みの確立を訴えた。
※九州・沖縄サミット(2000年)で初めて感染症を主要議題として取り上げ、グローバルファンド(世界エイズ・結核・マラリア対策基金)の設立に一役を担った。洞爺湖サミット(2008年)では感染症や母子保健を含めた保健システムの強化を取り上げた。
3.女性の活躍推進
女性の健康や生活にやさしい環境の整備。女性のリーダーシップの強化が社会発展のために不可欠との認識から、人材育成の実施を発表。特に科学・技術・工学・数学の分野での女子教育強化を決定。
サミットの成果、NGOはどう評価した?
上記で挙げた内容は、首脳宣言に盛り込まれているほんの一部分で、SDGsの目標達成につながる分野への言及は全体でも少ないものでした。4つの重要議題以外に、SDGsを大きく取り上げるべきであったにも関わらず、経済に関する言及は30ページ中、なんと8ページ。4つの重要議題のなかでも、経済成長が優先されたことがわかります。しかし、経済のなかで言及されるべき格差や不平等の問題は空振りに。サミット開催前に公表され、あれほど話題を集めた「パナマ文書」で明らかになった「合法的脱税」には言及がありません。SDGsが解決しようとする問題の根幹をなす格差・不平等の是正への姿勢が読み取れないものとなっています。
一方で、女性の活躍推進に向けて横断的にあらゆる分野で言及されていたことは評価できます。しかし、重要であれば本来あるべきだったサミット最後の記者発表での言及は、残念ながらありませんでした。
サミットの重要議題の一つであるはずの開発分野に関しては、最後のわずか2ページ強。そのなかには「アフリカでの課題解決がSDGsの実現のために不可欠である」との言及があり、2016年8月開催のアフリカ開発会議(TICAD)が「重要な節目」と位置づけられました。しかし、サミットに合わせてG7以外の首脳や国際機関の長から意見を聞くアウトリーチ会合に、今回招待したアフリカの国はチャドのみ。これまではアフリカから5ヵ国ほど招待していましたから、本当にアフリカを重視するつもりがあるのか、懸念を持たざるを得ない内容でした。
それではHFWがいくつかの団体とともに担当したSDGsの二つ目の目標「飢餓をゼロに」に関係する食料安全保障及び栄養についてはどうだったのでしょうか?
これまでの食料政策が効果を出していたかどうか、調査して公表するアカウンタビリティについては言及されました。このアカウンタビリティについては、HFWもNGOと外務省との定期協議会を通じて提言をしてきており、これ自体は歓迎すべき内容です。ただ、誰がどのように調査するのか透明性が担保されているかどうかを、注意深く見守る必要があります。
また、世界の農民の大半を占める小規模の農家についての言及、インフラ整備や企業とのパートナーシップの負の面として起きてしまう土地収奪などの問題についての言及はありませんでした。栄養改善についても、在来の食べ物を活用する視点が全くありませんでした。文書中には、日本で開催予定の国際シンポジウムや栄養サミットの記述がありましたが、具体的な内容には触れていませんでした。
総合的に、NGOはこのサミットをどのように評価したのでしょうか? NGOは、書道家に一文字で大きく書いてもらい、メディアに発表しました。その文字は「地」。これはG7のプロセスに関わった多くのNGOが、成果文書に対して、期待が「地」に落ちる思いを味わったというがっかり感を表現。成果文書のほとんどは具体的なコミットが盛り込まれず、また野心的な方向性も打ち出せていない、という見解です。しかし、それとともに、NGOがこれまで政府に対し有効な提言ができていたかも自己評価をし、「地」からまた立ち上がって提言能力を高めていこうという決意を込めています。
サミット直前、そして開幕中。NGOは活発に活動しました
【メディアへの働きかけ】
多くの人に世界の問題をわかりやすく伝えるためさまざまな仕掛けをしました
サミットでのNGOの活動は政策提言のみではありません。サミットを報道するために多くのメディア関係者が集まる機会を利用し、NGOの活動や要求を、メディアを通じて多くの人々に伝えました。
たとえば、HFWが中心となって企画した17人18脚を実施。SDGsは開発途上国の課題のみならず、日本国内におけるさまざまな課題の解決を求めており、SDGs 達成には政府だけではなく、企業、学界、NGOなど多様なセクターとの連携が不可欠です。 今回国内外のさまざまな課題に取り組むNGO/NPOなどの団体が三重県に集まったことを生かして、地元・東海のNPOや地域の方とともに、SDGsの17のゴールに向け、連携の重要性を伝えました。この企画は朝日新聞、毎日新聞、中日新聞など多くのメディアに紹介されました。
また、サミットの一日を象徴する漢字を書道家に書いてもらう「今日の一文字」を毎日の定例記者会見で披露。NGOの思いを表現してもらい、報道してもらいました。ほかに、ホームレスの人たちの苦境を実体験できる「世界一寝心地の悪いベッド」の展示や、G7の首脳たちをスーパーヒーローになるように求めた等身大のパネルが展示され、メディアの取材を受けました。これらのビジュアルに工夫したパフォーマンスや展示で、メディアを通じて多くの人々にNGOのメッセージを届けることができました。
サミットの評価を「地」の一文字で表現。期待は「地」に落ちた、と厳しい評価になった
メディアの取材拠点となった国際メディアセンター入り口
NGOが行ったSDGsをアピールする17人18脚は新聞の一面に。WEB版では動画も配信された
17人18脚でNGO/NPOのメッセージを発信しました
HFW職員米良が企画と実施に携わった17人18脚。多くのメディアに取材してもらいました
その他のNGOの活動
G7ユースサミット
YEHが参加し「食料・栄養」の分科会を担当
5月22日、G7ユースサミット(主催JYPS)が三重大学で開催されました。ユースサミットは、大勢の若者たちが数々の国際問題に対して議論し、政策提言につなげることをめざし、サミットに合わせて開かれています。約150名が参加。HFWの青少年組織ユース・エンディング・ハンガー(YEH)も4名が参加し、食料・栄養で分科会を担当しました。11名が参加した分科会では飢餓についてYEHが解説。バングラデシュ支部のYEHメンバーともテレビ会議をつなぎ、バングラデシュの若者の抱える課題について質疑応答の時間も。参加者は現地の声を実感を持って聞くことができたようでした。その後、SDGsの目標の一つ、飢餓問題解決にむけた提言をまとめました。他の分科会の提言と合わせて、JYPSにより日本政府に届けられました。
市民の伊勢志摩サミット
NGOとNPOが連携し、各分科会で提言書をまとめました
5月23日、24日は四日市のじばさん三重で、市民の伊勢志摩サミット(主催:2016年G7市民社会プラットフォーム/東海「市民サミット」ネットワーク)が開催されました。地域課題や国際的な課題をテーマに、国内外で活動しているNGO/NPO関係者300名が一堂に会しました。2日間で16の分科会が開催され、HFWは、アフリカと食料の2つの分科会に参加。情報収集しました。それぞれの分科会ごとに提言となる宣言文章をつくり、国際社会、地域へ発信しました。