調印式の開始にあたり、日本からHFW理事長の鶴見が、バングラデシュ支部の職員に向けてスピーチを行った。これまで共に「飢餓のない世界」をめざして歩んできた歩みへの感謝と、今後の連携関係について語り、相互の信頼のもとでさらなるコミュニティの発展をめざす強い絆を確認した。左は、長年にわたり女性の「食への権利」向上に尽力してきたアンジュマン・アクター氏(2025年12月31日までHFWバングラデシュ支部事務局長代理。)
― HFWの25年の歩みを、次の担い手へ ―
ハンガー・フリー・ワールド(HFW)のバングラデシュにおける活動は、HFWの影響を受けて設立され、能力を高めてきた現地NGOへと引き継がれることとなりました。2030年をもってHFWの支援から卒業し、自立した運営へ移行いたします。
これは、HFWが掲げる「『食料への権利』を実現するため、人々や地域・社会をエンパワーする」というミッションを、ひとつの国において果たすこととなる、大きな節目でもあります。
HFWバングラデシュ支部が、現地NGOとして巣立ちに向けた歩みを進めることができたのは、多くの方々のご支援によるものと心より感謝申しあげます。
現地NGO・BBFへの事業承継に向けた第一歩
2025年12月18日、基本合意書に調印
2025年12月18日、HFWは、現地NGOであるビコシト・バングラデシュ・ファンデーション(Bikoshito Bangladesh Foundation/以下BBF)と、事業承継に向けた基本合意書(MoU)を締結しました。
BBFは、HFWの影響を受け、バングラデシュ支部職員の発案によって設立され、将来を見据えながら段階的に経験を積み重ねてきた現地NGOです。今回の合意により、HFWバングラデシュ支部の職員9名はBBFへ移籍し、HFWがこれまで築き、活用してきた資産もBBFへ譲渡されます。
これまでHFWが実施してきた事業は、今後、BBFが主体となって継承・運営していきます。 HFWは BBFの自立に向けた組織強化を目的に、支援額を段階的に縮小しつつ、2030年までパートナーとして伴走します。なお、HFWバングラデシュ支部事務所は、閉所に向けた手続きを行うため当面維持し、2027年9月に閉所する予定です。
「食料への権利」を地域の力で守るために
HFWがバングラデシュで積み重ねてきた25年
バングラデシュでは、2000年に首都ダッカおよび農村部のカリガンジ郡、ボダ郡の計3地域・23村で活動を開始しました。持続可能な農業の推進や、女性の地位向上・権利保護を柱に事業を展開し、2005年には外務省の「日本NGO連携無償資金」を活用した有機農業訓練センターの運営を開始しました。
その後、母子栄養改善など「食料への権利」に関する取り組みを広げ、2022年からは、女性グループへの直接支援から、複数のグループを束ねる女性グループ連合会への支援へと移行しました。現在は、地域住民が主体となって事業を運営できる段階へと進んでいます。
このように、過去25年間にわたり多くのレガシーを積み重ねてきましたが、これらをいかにバングラデシュにおいて次世代へ引き継いでいくのが最善なのかについて、HFW本部とバングラデシュ支部は、さまざまな角度・観点から将来のあるべき姿を検討してきました。
国際NGOとしてのひとつの到達点の形
なぜ「国としての卒業」を選んだのか
HFWはこれまで、ブルキナファソにおいても、長期間をかけて地域の住民グループを育て、活動地を次へと移してきました。今回のバングラデシュでの決断は、特定の地域ではなく、「国におけるHFWの活動そのもの」が自立するという点で、非常に意義深いものです。
BBFへの継承を決断した3つの理由
・地域の自立を最も確かな形で実現できること
BBFへ継承することで、HFWが長年めざしてきた「地域の自立」が実現できると判断しました。これまで蓄積してきた知見や経験が、より地域に近い立場で活かされると考えています。
・バングラデシュの市民社会の発展につながること
BBFが現地NGOとしてドナーを多様化させながら事業を発展・発信していくことは、市民社会を豊かにし、公益に資するものだと考えました。
・HFWの理念が次世代へ引き継がれること
HFWの影響を受けて発足したBBFのビジョンやミッションは、HFWが掲げてきた理念と重なっています。自らの手で自国の持続的な発展をめざしたいというBBFの意欲は尊く、継承した後もHFWの精神が受け継がれていくと判断しました。
これからに向けて
2025年12月18日には、基本合意書の調印式とあわせて、長年にわたりHFWバングラデシュ支部で活動してきた職員の功績をたたえる感謝式も執り行われました。
HFWは2026年から2030年まで、BBFのパートナーとして、組織能力強化や事業実施を側面から支援していきます。
このような展開を迎えることができたのも、みなさまからの長年にわたるご支援があったからこそです。ぜひ、バングラデシュ人による、バングラデシュの未来を支えるBBFの新たな挑戦を、引き続き応援していただければ幸いです。
なお、この式典が行われた12月18日、バングラデシュでは学生運動の指導者の方が亡くなられるという痛ましい出来事がありました。尊い命が失われたことに深い哀悼の意を表するとともに、ご家族および関係するすべての方々に心よりお見舞い申し上げます。
2024年の政権崩壊以降、社会的な緊張が続くなかにあるバングラデシュが、この困難な状況を乗り越え、平穏と希望を取り戻していくことを心より願っています。
(2025.12.19)
続いて、HFW理事長の鶴見から、バングラデシュ支部の各職員へ感謝状が贈呈された。 アタウル・ラーマン・ミトン氏(2025年12月31日までHFWバングラデシュ事務局長)は、「2000年に始まったHFWとしての旅とともに、私たちも成長してきました。独立を果たした勝利を記念するこの時期に迎えたこの節目が、ドナー依存から自立への大切な一歩になると感じています」と述べ、HFWへの感謝と今後への決意を語りました。
式典には、政府機関関係者をはじめ、農業・保健・教育分野の専門家、活動家、他団体で活躍する元HFWスタッフなど約50名が出席し、日本のNGOからバングラデシュのNGOへの継承を見守りました。この様子は現地メディアでも報道され、新たな社会の動きの一歩として注目を集めました。