合意書への署名式
12の村とともに築いた、20年にわたる農村開発の軌跡と、新たな門出
西アフリカの国・ベナン。首都コトヌーから北西へ約100キロ、ゼ郡ドジ・バタ地区に12の村があります。ハンガー・フリー・ワールド(以下、HFW)は約20年にわたり、このドジ・バタ地区の住民たちが自立的に食料を得るための支援活動に取り組んできました。
その活動は大きな節目を迎え、2025年末までにこれまでHFWが支援してきた活動地での活動を、地域住民へと引き継ぎました。そして、2026年2月に合意書を交わす式典が行われ、日本本部から理事長の鶴見が出席しました。
住民の決断による「引き継ぎ」の式典
式典は、2008年にHFWの支援を通じて建設された母子保健センター前のグラウンドで開催されました。気温は35度を超え、時には40度近くに達する厳しい暑さ。近年は気候変動の影響か、これまでにない高温を記録しているといいます。
参加者は公式登録だけで492名。そのうち417名は、12村の代表、啓発活動を担ってきた啓発専門員、地域指導員約50名や、若者たち47名、子どもたちなど地域住民です。残りの75名はゼ郡庁関係者や地域リーダーたちでした。ゼ郡庁の75名のうち女性は32名でしたが、参加者全体の女性割合は約7割を占めており、HFWの事業地で活躍する女性の存在感が際立ちます。
また、式典を一目見ようと近隣からも住民が詰めかけ、最終的には500名規模の集まりとなりました。女性は色鮮やかな原色の正装を身にまとい、男性はアフリカ柄のシャツで、さらに式典を華やかなものにしていました。
鶴見はこの20年間の活動を振り返って、次のように語りました。
「20年前、ベナン事務局長のファトゥさんが若者向けの啓発活動からこの地域での取り組みを始めました。学校や母子保健センター、食品調理施設など、住民とともに一つひとつ築いてきました。その結果、栄養豊富な食材の開発や、調理方法の指導が適切に行われるようになりました。さらに、女性の権利の啓発活動、母子保健衛生の知識の普及、種子の栽培と保存による地域住民の自給率の向上など、地域の自立を目標に、さまざまな活動をしてきました。
そこで2年前の2023年に、今後について住民と率直に話し合ったところ『自立できるのではないか』という声が大多数を占めました。2025年までを準備期間とし、2025年末で支援活動を終了しました。そして2026年2月、その節目として合意書を交わす式典を行うことになりました。」
式典は挨拶やベナン支部事務局長ファトゥさんや村の代表者、鶴見などからのスピーチから始まり、衛生向上の啓発を目的とした寸劇の実演、調印式と進行しました。 調印式で、HFWとドジ・バタ地区モニタリング委員会が合意書に署名。住民たちと互いに合意を確認し合うことができました。
ベナン支部局長のファトゥさんの語りから、20年を振り返る
式典での様子からも、ベナンの活動はベナン支部局長のファトゥさんという非常に優れたリーダーが愛情を持って育てたことが伝わってくるようでした。村人からも慕われ、尊敬されている様子には 鶴見も感動したそうです。そこで、式典後に鶴見がファトゥさんに、これまでのドジ・バタ地区での活動について話を聞きました。
「私たちは『魚を与える』支援から、『魚の釣り方を身につける』仕組みづくりをしてきました。それを村々に残せ、大きな行動変容につなげられたことは最大の成果です。自らの成長による自立の重要性を、誰も否定しないでしょう。今後は、彼らがしっかりと自立を持続していくかを見据えていきたいですね。
正直に言えば、ドジ・バタを去るのは辛いことです。しかし、私たちは全面的に自立を支持し、住民たちならやり遂げてくれると信じています。
今後問われるとすれば、リーダーシップでしょう。問題が起きたとき、原因を探り、誰がどう解決するのか。その指針となるのが『自律性の評価指標』です。これは自立に必要な、自分たちで活動計画や予算管理を運営できるか、リーダーを選出して責任と役割を果たしていけるかなどを示した指針です。今後は2人のリーダーが、この評価指標を起点として、自立を保ちながら活動を継続させていくことが期待されます。」
また、今後の新事業地の選定に当たっての基準についても聞きました。
「第1の基準は栄養不良の状況です。ベナンにはまだまだ厳しい状況の地域があります。ただし、農業を営む能力を持つ地域であることが前提です。
そのほかには、他の人道支援の活動と重複しないこと。ドジ・バタ地区で築いた経験や仕組みを最大限に活かせることも重要です。啓発活動のような無形資産を眠らせず、新事業地でも活用したいと考えています。将来的には新たな事業地においても、ドジ・バタ地区との協働も実現できるといいですね。」
このように、住民たちへの熱い信頼を寄せていることと、これからの事業地への展望も語ってくれました。
「引き継ぎ」を終えて
25年にわたり国際NGOの業界を見てきた鶴見は、こう総括します。
「このような式典にこれまで何度も参加したことはあり、通常は活動終了を『卒業』や『撤退』と呼び慣わします。しかし、今回は『引き継ぎ』と呼ぶことが最も適切です。住民が自ら自立を決断し、これまで準備して今日のこの日を迎えることができました。「私たちは住民に託した」という幕引きは他にはない、誇るべき終わり方です。」
最後は、地域住民も交えてのダンス。鶴見も「30年ぶりに踊ったが、自然に足が出た」と笑います。アフリカでは歓迎やお祝いで掛け声をかけながら踊り、その気持ちを示すことはごく当たり前に行われます。
20年の歩みの先にあったのは別れではなく、尊厳ある引き継ぎ。ドジ・バタの人びとが自らの力で未来を切り拓いていくことを信じ、HFWは新たな事業地での活動へと歩みを進めます。
ドジ・バタ地区12村の代表者たち
左からベナン支部事務局長のファトゥさん、ドジ・バタ地区モニタリング委員会代表のマティアス氏、ゼ郡庁書記長のベルトン氏、通訳のタチアナさん、日本本部理事長の鶴見
式典を祝うダンスの輪
ドジ・バタ地区の啓発活動の指導員、HFW職員、日本本部の鶴見理事長と集合写真